「グッドワイフ」3話の感想|脱線事故の真相は過労?隠蔽というリスクヘッジ

TBS日9ドラマ「グッドワイフ」

2019年1月期のTBS日9ドラマ「グッドワイフ」。

第3話(2019年1月27日(日)放送分)を見た視聴者の感想をお届けします。

また、ネタバレを含むあらすじや、次回の見どころも紹介していきますよ。

「グッドワイフ」第3話のあらすじ

回送列車の脱線事故が発生。死亡した運転士の遺族代理人として、杏子(常盤貴子)、多田(小泉孝太郎)、朝飛(北村匠海)が担当することになった。

相手の東神鉄道の代理人を務めるのは河合映美(江口のりこ)。杏子たちは過重労働による事故で1億円の賠償金を提案するが、映美たちは運転士の居眠りだとして50万円の見舞金を提案。真っ向から主張が対立する。

しかも、妊婦である映美は形勢が悪くなると打ち合わせ中でも体調不良を理由に交渉を中断する始末。そんな映美に翻弄され、杏子たちは窮地に追い込まれていく。
 

一方、杏子は拘置所にいる壮一郎(唐沢寿明)と面会し、過去の幸せだったころの話をする。壮一郎の逮捕後、初めて笑顔になった杏子は、もう一度前向きな気持ちになっていく。

そんな杏子を見て多田ははがゆい思いだが、気持ちを抑えながら過重労働を証明すべく、勤務実態を調べていく。その過程で、杏子はある違和感に気づき…。

引用:ドラマ公式サイト

 

「グッドワイフ」第3話の感想

当サイト読者の方から寄せられた、
「グッドワイフ」第3話の感想をご紹介します。

裁判なき法廷ドラマ~列車脱線事故の謎

東京地検特捜部長の夫の汚職逮捕により、16年ぶりに復帰した弁護士、蓮見杏子を主役に立てたテレビドラマ。

裁判を巡る人間ドラマを豊かに描いた前回と打って変わって、今週第3回目は事件そのものに焦点を当てた骨太の法廷ドラマに仕上がっている。

とは言え、法廷シーンは一切ない。弁護士を始めとした原告被告の関係者による示談交渉ミーティングを重ねるだけで事件が決着する。現実にはありがちなのだろうが、法廷ドラマとしては斬新な構成と言えるだろう。

話の軸には東神(とうじん)鉄道の列車脱線死亡事故がある。深夜、回送列車がカーブを曲がりきれず脱線し、運転士の井口が事故死する。居眠り運転だとみなされたが、杏子たち原告側は過重労働による疲労が原因だと主張。

東神鉄道と被告弁護士・河合はそれを否定。勤務表にある勤務時間は合法的なものであり、杏子側が示した井口の手帳にある時間と食い違い、真っ向対立することになる。
 

過重労働の影に隠れていた大きな真相

というワケで杏子たちは東神鉄道の過労を証明すべく、同社の社員をつぶさに当たってゆくが、河合の口止めによって誰もしゃべってくれない。そうこうするうちに東神鉄道の労務担当の女が、過労が常態化した社内情報をリークする。

示談ミーティングで杏子たち原告側がそれを示すと、被告側はなおそれを突っぱねる。法廷闘争にうつるかと思われたが、ギリギリで東神鉄道側が過労を認定し、原告側の損害賠償請求に応じると折れた。

そこで一件落着しないのが、今回の『グッドワイフ』最大のポイントだ。杏子のその後の聞き込みにより、脱線の際に列車は大きな汽笛をあげたことが分かった。つまり、運転士の井口は、事故前に居眠りしていなかったのだ。
 

真相は、東神鉄道による車両不良隠しにあった。同社は列車ブレーキの定期点検を怠り、国交省に対してはその費用を架空計上していた。それによって回送列車の脱線事故が起こり、運転士が死んだというワケだった。

つまり、東神鉄道は業務上過失致死や会計監査の改ざんといった過労よりも遥かに重い罪を隠していたのだった。
 

大きな過ちから2番目の過ちへのミスリード

杏子や所属事務所代表・多田が指摘したように河合が率先したこの隠ぺい工作は巧妙なものだった。争点を過労にすり替え、徹底抗戦の姿勢を見せることでミスリードする。さらに内部告発によって過労に重みを持たせていたのだ。

新米弁護士、朝飛が「肉を切らせて骨を断つ」というが、正確には被告側は相手の骨を断って倒すことよりも自分の保身のためにやっているので「肉を切らせて骨を守る」という方が正しいだろう。

これは何か大きな過ちを犯した時に最も有効なリスクヘッジになりうる隠ぺい手段である。

大きな過ちは幅が大きく、隠ぺいすること自体にムリが出てくる。発覚すれば隠ぺいの罪を伴うより大きな代償を払うことにもなる。そこで、その過ちに含まれる2番目の過ちにミスリードするという奥の手が出てくる。

争点をそこにずらすことができれば、計画的な敗北に持ち込める。つまり、わざと負けることで真相よりも小さな代償でことを済ませられるのだ。これはかなり深刻なケースの危機管理における最良の対応手段の1つだろう。

真相発覚後の緩い演出に難点

というワケで、法廷ドラマとしては極めて深く練られている。『グッドワイフ』はアメリカ製作のドラマのリメークだが、ここが日本の脚本家による手腕であれば見事なものだ。

しかし、同時にまずい演出がこの魅力的なツイスト、大転換の邪魔をしている。示談ミーティングの際、杏子たちによって列車の車両不良を指摘されると、東神鉄道社員らの被告側は態度を一変させる。

「あ~バレちゃった」という緩い空気になり、社員は責任転嫁し始め、上司もまたヒステリックにふるまう。これはあまりに非現実的すぎる。いくら非公開のミーティングでも、犯した罪が重すぎるだけに、被告の企業側はあからさまな証拠が突きつけられても依然シラを切り続けるのが普通だろう。

法廷ドラマらしく争点の白黒決着をより明白にしたかった気持ちは分かる。だが、あまりに茶番であり、それまでの巧妙なドラマが台無しになりかねない演出だったと思える。
 

2重プロットを1つにつないだストーリー

とは言え、難点はそこだけだった。もう1つ最高に素晴らしかったのは、各回エピソードとシリーズ・エピソードをつなげた構成にある。

ドラマの最終盤に来て、列車脱線事故という各回エピと杏子の夫、壮一郎の贈収賄疑惑というシリーズエピがつながるのだ。過去、東神鉄道の架空計上は社員によって地検にリークされていたが、地検は同社を不起訴にしていた。

つまり、そこには癒着による隠ぺい工作の可能性があった。当時の地検トップは壮一郎の後任として東京地検特捜部長になった脇坂(吉田鋼太郎)である。そのため、拘置所内で脇坂にかなりやり込められていた壮一郎が形勢逆転することになる。

さらに、壮一郎が妻・杏子を使って東神鉄道の事件を当たらせていたことが分かる。彼は檻の中から間接的に世の中を大きく動かしたことになる。その伏線もしっかりしていて、この展開は素晴らしいものだった。
 

大きく前進したラブストーリー、すばらしき怪演、江口のりこ

また、『グッドワイフ』のもう1つの魅力は、夫と離れた杏子と事務所代表で顔なじみの多田のラブストーリーにある。

今回、杏子は拘置所の壮一郎と復縁の兆しを見せる。夫の罪は自分が彼の苦境を親身になって考えなかったことにあることを認め、2人は事件以来、初めて面会中に笑みを交わす。杏子は多田にも夫婦でやり直したいと言う。

だが、最終盤にきて一変。壮一郎が出所目的で狡猾に杏子を利用していたことが発覚。そこで悔し涙を流す彼女に、多田がよりそって「未来を生きよう」と言う。離婚を考える女性たちが見れば「キャー」というような場面だろう。

ジェットコースターのようなこの恋愛の上げ下げ展開はおみごと。
 

そして、被告側の弁護士・河合を演じた江口のりこも強烈なインパクトを残した

河合は妊娠中で、ミーティングの際、ピンチになるとお腹の子どもをだしにしたり、お菓子を取り出したりして逃げの手を打つ。その巧妙さから妊娠自体も疑わしく思えるほどだ。

真相が判明した時にも自分は過労以外のことは知らず道義的責任から身を引くといって、さっさと逃げてしまう。この悪徳弁護士ぶりには、憎らしさを通り越して愛着のわくものだった。江口には今後もゲスト出演して欲しいものだ。

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