その頃、龍雲丸たちは大沢の兵が占拠している堀川城に忍び込んでいた。
城のかがり火を消すと同時に、大沢の兵たちを次々と湖に突き落としていく。
松明を持った兵が駆けつけてきたが、龍雲丸はからくも逃げ出した。
一方で、ゴクウと力也が、捕らえられた気賀の民を逃がそうと隠し港のほうへ誘導していた。
すると、こちらに向かってくるいくつかの船の姿が見えた。文字通りの助け船だ。
乗り切れなかった民を助け船に誘導しようとした瞬間、船から飛んできた矢がゴクウの胸に突き刺さった。
「ゴクウ!」
雨あられのように矢が降り注いだ。
龍雲党の仲間や民たちがバタバタと倒れていく。
「何故、中村屋が!?」
誰かが叫んだが、力也にも何がなんだか分からず混乱していた。
家康に堀川城攻めを任されたのは酒井忠次だった。
忠次は城が見下ろせる場所に本陣を置いた。
「第一陣が裏手から城に攻め入りました」
伝令を聞いた忠次は、続いて言った。
忠次「よし、そのまま攻め落とせ」
方久「……え?酒井様…」
忠次「なまぬるい仕置きでは大沢は下りはせぬ。見せしめがいる」
方久「しかし、気賀の民はお助けくださると、徳川様は…」
忠次「手向かいをした。それまでのことじゃ」
恐ろしいほど冷たい目で方久を見やった。
龍雲丸は傷を負ったものの、城の一角に逃げていた。
眼前に広がる光景に呆然とした。
潮が引いた中洲では、徳川兵と大沢兵が泥だらけになって戦っている。
閉じ込められていた民は、追い詰められた結果、徳川兵にも大沢兵にも手向かっている。
見えるだけでも死傷者は数え切れないほどだ。まさに地獄絵図だ。
そんな中に、怪我を負っているカジの姿が見えた。側にはモグラが倒れており、カジは兵に取り囲まれていた。
龍雲丸はすぐそばに倒れている兵から刀を奪うと、カジのもとへ走った。
カジが斬りかかられる直前、背後から龍雲丸が敵を倒した。
龍雲丸「カジ!大事ねえか」
カジ「へぇ」
龍雲丸「よし、逃げ…」
その瞬間、脇腹に鋭い痛みが走った。
「ああああああああ!」
直虎は自分の悲鳴で飛び起きた。
「どうした! 苦しいか?」
南渓が飛んできた。
直虎「夢を、見て…人を、殺す夢を…」
直虎は手で顔を覆った。
背後から刀で男を刺した夢だった。
南渓「たかが夢じゃ、次郎。朝が来れば終わる。終われば、わしらがおる」
直虎「…はい」
そこに足音が響いた。
「お、和尚様! 和尚様はおられますか!?」
方久の声だ。
戸を開けると、ボロボロの方久と辰がいる。
南渓「どうしたのじゃ、その格好は」
方久「気賀が…気賀が、徳川に襲われました!」
南渓「襲われた!?」
夢の中で倒れていった男は、やはり龍雲丸では…!
「次郎!」
直虎は考える余裕もなく駆け出していた。
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