直虎は再度虎松のもとを訪れた。
自身の幼なじみで虎松の父・直親の話を切り出した。
直虎「そなたの父上は幼い頃、亀という名のとおり、おっとりした男子であった。優しいが、少し頼りなく、体も弱くてな」
虎松はじっと聞き入っている。
直虎「なれど、弓もうまく、知恵もある肝の据わった頼もしい男になった。なぜじゃと思う?」
虎松「…悔しかったから」
直虎は黙ってうなずく。
虎松は涙を浮かべながら言った。
虎松「本当は、誰より強くないといけないのに。できないといけないのに…」
直虎「勝とう、虎松。…われもともに戦うゆえ、何か一つでいい。皆の鼻を明かしてやろうぞ」
後ろで襖が開いた。しのが立っている。
泣いている虎松を見ると、鬼の形相で入ってきた。
「母上!」
虎松は続けた。
「虎松は勝ちたいです!勝って、父上のようになりたいです!」
この言葉で、しのの動きが止まった。
その後、直虎自身が五目並べの特訓をすることにした。
ある日、腕試しとして亥之助との対局が設けられた。
対局の前日、伯父である政次が亥之助に秘策を授けた。
五目並べは先手が圧倒的に有利だというものだ。
対局が始まると、亥之助はすぐに碁石を手に取り、先手を打ってしまった。
その結果、虎松は負けた。
虎松「もう一回、もう一回じゃあ!」
今までの虎松では考えられない意欲を見せた。
直虎は嬉しかった。
対局の前に、諦めないかぎり負けにはならないのだ、と教えていたからだ。
そんな虎松の様子を見たしのが、昊天に言った。
しの「虎松が立派に直親殿の跡を継げるよう、鍛えてやってくださいませ」
直虎は安堵した。
虎松が一人前の男となるまで、父親役を務め上げねばならないと誓いを新たにした。
ある日、鍛冶職人の五平が居館にやってきた。
あろうことか、種子島が盗まれたというのだ。
五平「見本も、作っておりました物も、今朝になって忽然となくなっておりまして」
すぐに向かおうとしているところに、冷静な声が聞こえてきた。
「お探しの物はこちらにございますか」
政次だった。
従えている家人が木箱を抱えている。
中には種子島と、作りかけの複製が入っていた。
直虎「何ゆえ、そなたのもとにある。盗んだのかと聞いておる!」
政次「かようなものを作らせておるなど、目付として黙って見過ごすわけにはいきませぬからな」
政次は冷静に続けた。
政次「また謀反をたくらんでおったのではございませぬか?」
直虎は絶句した。
後ろから直之が声を張った。
直之「われらは謀反などたくらんではおらぬ!もし戦となれば、これを持って今川の兵として戦うつもりじゃ!」
政次「果たして信じていただけるかどうか。謀反をたくらんだ者は、皆そう申しますからな」
直之は刀に手をかける。
「抜くな!」と直虎が言った。
政次「助けてほしければ、みずから後見を降りられよ」
政次は冷笑を浮かべている。
直虎「汚いぞ、政次」
政次「かように脇の甘いそなたに、井伊が守りきれるとは到底思えぬ。おとなしく後見を降りられよ。それが井伊のため、御身のためだ」
[次回]
第18話のあらすじとネタバレ!「あるいは裏切りという名の鶴」
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