ある日、百姓たちが直虎のもとを訪れた。
瀬戸という村の領主に代わって挨拶にきたのだという。
その百姓たちに懇願されて、瀬戸の村に向かった。
瀬戸に着くと、ひどい光景が広がっていた。
田畑は耕されず放棄された荒れ地が広がっていたのだ。
桶狭間の戦いを筆頭に、度重なる戦で働き手がいなくなってしまったのだという。
百姓「そんでもお年貢は納めねばならんで、銭や米を銭主に借りることになりまするで」
百姓は、年貢と銭主への返済の二重の支払いを強いられることになってしまう。
甚兵衛と名乗った案内の老農夫は、いきなり土下座した。
甚兵衛「ご領主様、徳政令をお願いいたします」
徳政令とは、貸借関係の一切を破棄するよう領主が発する貧民救済の法令だ。
甚兵衛「それさえあれば、村は息を吹き返せまする!」
直虎「わかった。すぐに支度をする」
同行している直之は仰天した。
直之「さようなこと、安請け合いなさっては…」
直虎「構わぬ。領主はわれじゃ」
直虎たちが居館に戻ると、六左衛門(田中美央)が血相を変えていた。
六左衛門「このままでは井伊は潰れてしまいます!」
六左衛門が証文の束を見せると、直虎は思わずのけぞった。
六左衛門「どうも、これまでの戦のたびに商人から借り入れをし、支度されていたようで」
書面には、瀬戸方久なる名前が書かれていた。
直虎は驚愕した。
百姓の甚兵衛が口にしていた銭主の名も、同じ瀬戸方久だったからだ。
直虎「井伊も、方久とやらから金を借りておるのか…」
そのとき、客人の知らせが届いた。
家人「瀬戸の方久様とおっしゃるお方にございます」
客人「ご領主様がお代替わりされたと伺い、お祝いに参じましてございます。瀬戸村の方久と申します」
平伏していた客人が顔を上げると、直虎は何かに気付いた。
直虎「…どこかで会うたことはないか?」
方久「ございますよ」
そう言うと、方久(ムロツヨシ)は袂から藁束を取り出した。
方久「はみ出し者同士、仲良くやるまい」
その瞬間、直虎は過去の記憶を思い出した。
井伊谷から失踪した亀之丞(三浦春馬)を探して家を飛び出し、暗い夜道を歩いた。
直虎「お主、あのときの!われを泊めてくれた。なのに、われを突き出した!」
方久「さようにございます」
直虎「そうか、そなたが方久であったか」
方久は、その後のことを語りだした。
おとわを引き渡して手にした褒美で浜名湖の魚を安く買い、干物にして売り捌いた。
干物で儲けた金で、潰れかけた茶屋を買い取って、安く茶を出す店にすると、また繁盛。
茶屋には、どこで戦が始まるという話が入ってくるので、今度は戦場で商売を始めるようになった。
方久「食料や薬を売り、戦が終われば刀剣や鎧を拾って次の合戦で売りさばく」
この男がやっていることは、半ば盗人だ。とはいえこの男には、銭を動かす才覚がある。
方久「私は銭の犬にございます。ワンではなく銭を求めて貫と泣きまする。カンカン!」
直虎は笑うと、身を乗り出して言った。
直虎「早速ひとつ頼みがあるのじゃが。瀬戸村の借金を棒引きにしてやってほしいのじゃ」
あっけにとられる方久だったが、直虎は徳政令の約束の件を明かした。
方久「直虎様というのは、おもしろいお方にございますなぁ」
井伊に貸している銭を、ここで耳をそろえて返してくれるならという条件で、方久は快諾した。
直虎「さようなこと、できるわけがあるまい」
方久「はい。返済は細く長くで結構にございます」
その日の夜、直虎と直之、六左衛門は、井伊家の財政状況を洗い直した。
すると、もはや破綻寸前となっていることがわかった。
方久への返済だけで、30年はかかる見込みだ。
直之「要するに、徳政令を出さねば済む話でござろう」
直虎「なれど、約束してしもうたではないか」
直之「放っておけば、そのうち諦めましょう」
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