南渓「今川に謀られたのだとしても、決めたのは直親じゃ。いざというときの覚悟はしておろう」
南渓の言うとおり、直親は覚悟を固めていた。
申し開きに来るようにという今川の下知に従い、駿府へ赴くことを決意した。
直親「こたびのことは、それがしの失態。
それがしが申し開きに参れば、それで済むことにございます」
直平「わしはもう、見送るのはごめんじゃ!」
直平(前田吟)をはじめ、誰もが18年前のことを思い出していた。
駿府に呼ばれ、誅殺された直親の父・直満(宇梶剛士)のことだ。
当時、亀之丞に起こった悲劇が、今度は直親の子・虎松に降りかかろうとしている。
自室に戻った直親は、虎松を抱き上げ、井戸の水が湧いたことをしの(貫地谷しほり)に話した。
直親「この子はきっと、ご初代様の生まれ変わりだと思うのだ。お前が産んだのは、そういうただならぬ子だと思うのだ」
涙を堪えている妻に、直親は短く伝えた。
「虎松を頼むぞ」
しのは泣き崩れた。
次郎は重い足で龍潭寺に帰り着いた。
「おとわ」
と呼ぶ声がする。
振り返ると、直親が笑顔で立っていた。
直親「よかった、会えて」
その表情を見て、次郎は直親の覚悟を悟った。
直親「よき日々が続くようにと、そんな井伊をと約束したのに」
次郎「なぜ直親が謝る。
私が男子に生まれておればよかったのじゃ」
直親「それは困る。
おとわがおなごでなければ、俺のたった1つの美しい思いでがなくなってしまう」
次郎は言葉で出なかった。
直親「おとわ、経を聞かせてくれぬか。
川名でのあの経を。
…もう一度聞きたい」
次郎「断る。
あれは死者を悼むものじゃ。
だから断る!」
遠くで鐘の音が響いた。
直親が次郎を抱き寄せた。
直親「では、戻ったら一緒になってくれ」
次郎「…心得た」
直親「では、行ってくる」
愛しい男の温もりが離れていった。
次郎「待っておるからな」
次郎は続けて叫んだ。
「待っておるからな、亀!」
「何をしても…どんな卑怯な手を使っても、戻ってくるのじゃ!」
直親は前を向き、駆け出した。
涙が溢れた次郎は、だた立ちすくんでいた。
[次回] 第12回のあらすじとネタバレ!「おんな城主 直虎」
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