8月27日放送の大河ドラマ「おんな城主 直虎」
第34話「隠し港の龍雲丸」の詳細なあらすじです。
前回(第33話)はこちら。
おんな城主 直虎 第33話のあらすじ「嫌われ政次の一生」
ネタバレ注意!
おんな城主直虎 第34話「隠し港の龍雲丸」あらすじ
南渓は、近藤と面会するために井伊の館に出向いていた。しばらくして龍潭寺に戻ってきたが、その表情は厳しい。
昊天「近藤殿はいかがでございましたか」
南渓「これ以上の仕置きはないという話じゃ。まだ油断はできぬがの。次郎は、大事ないか」
雨の中で一晩中読経をしていた直虎は、南渓の部屋で碁を打っているところだという。
南渓が行ってみると、部屋の前の廊下で直之と傑山が直虎の様子をうかがっていた。
南渓「政次を偲んでおるのか…」
青白い顔で黙々と碁を打っている。
そんな直虎が哀れで、南渓は声を掛けることをためらった。
昊天と直之は隠し里へ向かい、皆の前で事の顛末を話した。
なつ「義兄も本望でございましたでしょう…」
なつは半ば覚悟はしていたが、まだ十ばかりの亥之助にとっては、処刑された伯父の死は受け入れがたいことだろう。
突然立ち上がると、亥之助は外に走り出ていった。
なつが追いかけようとしたが、高瀬が止めに入った。
高瀬「なつ様、私が」
そう言うと、亥之助を追いかけた。
祐椿尼「あの…あの子はどのような様子ですか」
昊天「ずっとお一人で碁を打たれております。次郎はよく但馬と碁を打ちながら、事を進めておりましたゆえ」
なつが泣きながら頷いた。
祐椿尼は娘を案じる母の顔になって言った。
祐椿尼「あの子をこちらに一度引き取ることはできませぬか。今、寺におっては、あの子はつらいことばかり思い返してしまうのではないですか…」
直虎は部屋に籠もったまま、取り憑かれたかのように碁を打ち続けている。
昊天「次郎、隠し里へ行きませぬか?祐椿様も戻ってこいと仰せですし」
南渓「行ってきてはどうじゃ。皆もそなたと話したくもあろうし」
しかし、直虎は碁盤から目を離さない。
直虎「いえ。今宵あたり、但馬が来るかもしれませぬ」
南渓「次郎……ん?」
直虎「近藤殿が、どうも井伊へのたくらみを持っておるようなのです。但馬が来たら、どうやって処するか話をせねばなりませぬゆえ」
南渓と昊天は、顔を見合わせ絶句した。
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徳川軍は遠江を攻め進んでいる。
12月半ばには引間城(のちの浜松城)に入城した。さらに氏真の籠もる掛川城へと兵を進めようとしていた。
徳川の陣で軍議が開かれ、酒井忠次、石川数正ら重臣たちが顔をそろえた。そこには井伊谷三人衆──近藤、菅沼、鈴木も参じている。
忠次「山沿いの国衆は戦わずして下るところが多いな。ありがたい話じゃ」
そこに、山伏の常慶が現れた。
忠次「こたびは引間での調略、大儀であった」
常慶「は。先頃、井伊のほうがもめたと伺ったのですが、一体…」
自分が仲立ちした井伊の噂を耳にして、気になっていた。
忠次「おぉ、思わぬ手向かいがあったが、そこにいる者たちがうまく図ろうてくれての」
近藤たちが頭を下げた。
すると、常慶が手に持っている鉄砲に、忠勝が目を留めた。
忠勝「その種子島はなんじゃ?」
常慶「徳川に戦道具や兵糧をお納めしたいと申す者が来ておりまして。お目通りさせてよろしいでしょうか」
家康が喜色を浮かべた。
家康「それな何よりありがたい。早うその者を」
促されて、商人とその家人が入ってきた。山のように武器を荷車に積んでいる。
「おおお!」
一同が興奮して声を上げた。それぞれが武器を手に取って確かめている。
商人「このほかにもご入り用のものがございますれば、なんなりとお申し付けくださりませ」
商人は高価な織物の羽織袴を身につけ、全身金色尽くしの格好だ。
家康「おぬしはどこの商人じゃ」
商人「よくぞお訊きくださりました。それがしは商人にして気賀の城主・瀬戸方久と申します!」
直虎は依然1人で碁を打ち続けている。
龍雲丸「…ありゃ、何をやっておられるんですかい?」
南渓「近藤殿のたくらみを潰す策を考えておるのだそうじゃ」
龍雲丸「なんでさぁ、その話は…」
南渓「次郎の中では、どうもいまだ徳川はおらぬようでの。かつ、こちらは近藤のたくらみを前もってつかんでおるということになっておるようじゃ。その対処を但馬と話すと言うておる」
龍雲丸「但馬様と?その但馬様も生きてるってぇことに…」
直虎の中で、政次はそれほど大きな存在だったのだ。
龍雲丸「言うてやらねえんですか? まことのことは」
南渓「言葉の端々ににじませておるのじゃが、信じぬというか、そこだけ聞こえておらぬというか…」
これまで苦境を救ってきた南渓だが、今回は途方に暮れている。
龍雲丸「らしくねぇなぁ、和尚様」
南渓「あいつを城主にしたのはわしじゃからの。かようなところまで追い込んでしもうたと思うとな…」
龍雲丸「ああやってる分には辛そうでもねえし、本人は案外幸せなんじゃねえですかね。あわれだってなぁ、こっちの勝手な見方でさ」
話し声に気付いたようで、直虎が廊下に出てきた。
直虎「頭ではないか。久しぶりじゃのう。近頃は何をしておったのじゃ」
やはり牢の中での政次の言葉を伝えたことも、本当に覚えていないようだ。
龍雲丸「…何も。気楽なもんでさぁ」
直虎「そうか。ええのぉ。われは忙しゅうての」
そう言うと、また碁盤に戻っていった。
龍雲丸は、直虎の後ろ姿を痛々しい思いで見やった。
すると、南渓が思案顔で言った。
南渓「頭。老婆心じゃが、気賀の動きを一度確かめておいたほうがよいぞ。戦は何が起こるか分からぬ。巻き込まれぬように」
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龍雲丸は気賀に向かい情報収集をすると、根城に戻った。
そして、皆に荷をまとめるよう指示した。
龍雲丸「戦のにおいがしてきたからな。いつでも逃げ出せるようにしとかねえと」
直虎はまだ碁を打ちながら策を考えていた。
昊天や南渓が声を掛けても止まらない。
直虎「考えなしでは、但馬にばかにされますゆえ」
そう言って、碁を続けた。
昊天「次郎、聞きなさい。但馬は──」
真実をはっきり伝えようとした昊天を、南渓が遮った。
南渓「そうじゃそうじゃ。考えねばの。共に考えるか、次郎」
そう言うと、2人は笑いあって碁盤に向かった。
昊天は部屋を出て、先ほどのことを傑山に話した。
傑山「道に迷うた者に、どこにおるか声を上げよと言うても無理な話であろう。和尚様は、共に迷うことで、ゆっくりと手を引いてやろうとされておるのではないのか?」
昊天「分からぬでもないが…果たしてさようなこと、うまくいくのかのぅ」
年をまたいで永禄12(1569)年。
武田の駿河への侵攻は続いていた。武田と今川の仲立ちをしていた北条の怒りを買い、北条軍が進軍を始めた。これによって、武田の勢いは失速し、駿府にいる今川軍も息を吹き返していた。
その頃、遠江の掛川城では氏真が立て籠もり、城は持ちこたえていた。今川の重臣たちが寝返る中、掛川城城主の朝比奈泰朝が奮戦していたのである。
浜名湖岸でも、今川の国衆である大沢基胤が宇布見砦を奪還し、徳川軍は苦戦していた。
そんな中、ついに気賀も戦に巻き込まれた。
堀川城に大沢の兵が押し入り、蔵の武器が奪われ、港の船も接収されてしまった。
「今日よりここは大沢の城になる! これよりはわれらと共に徳川と戦え!」
方久は辰と共に逃げ出すことに成功した。
堀川城では、大沢の手の者に見つかった百姓や町の男、水夫たちが一箇所に集められた。その中には龍雲党の面々の姿もあった。
「おぬしらの城主は、おぬしらを置いて逃げた。頼みの綱としておる町衆たちも。近く、徳川が攻め込んでくるを恐れてな。おぬしらは見捨てられたのじゃ!」
一同がざわつくと、大沢の手の者が威嚇するように発砲した。
「腹をくくれ! うぬらには、もうあとがないのじゃ!」
力也とゴクウが戸惑っていると、後ろから小さく声がした。
「巻き込まれてどうすんだ。あほらしい」
「頭!」
「俺らぁ逃げてなんぼだろうが」
みずから作った勝手知ったる堀川城、龍雲丸たちは隠し港からこっそり逃げ出そうとしていた。
まず、大沢の家来を吹き矢で眠らせ、船を奪い返した。カジたちがすぐに船を出した。
城のほうを振り返ると、自力で逃げ出した男たちが大沢の兵に見つかり、殴る蹴るの暴行を受けている。
「この命知らずたちめ」
引間城は、徳川の負傷者でごった返していた。
忠勝「浜名の湖岸から、掛川に人を回すことはできませぬのか」
忠次「湖岸は湖岸で苦戦しておる。湖岸の兵を掛川に動かせば、背後を突かれることにもなりかねませぬ」
重臣たちの顔にも焦燥の色が濃い。
そんな軍議の中、家康は碁を打っている。
そこに、着の身着のままの方久が倒れ込んできた。
方久「城を今川方の大沢に乗っ取られてしまいました! どうか気賀を、城を取り戻してくださいませ!」
さらに、気賀の商人・与太夫たちもなだれ込んできた。
与太夫「いらぬ刃を交えるよりはと、こうして急ぎ民を乗せ、徳川様の元に馳せ参じたわけにございます。どうか、われらをお助けくださりませ。気賀に戻れました暁には、船、武具、兵糧など力を尽くし調えますので」
家康が手を止めて言った。
家康「方久、あの城の船着き場は表だけか?」
方久「いえ、実は城の裏側にもございますが」
家康「丑の刻に潮が満ちるのはいつじゃ」
数正「殿、何か妙案が?」
家康「まずは夜陰に紛れ、城の裏に船を着ける。そこで、捕らわれた民をこちらの船に逃げ込ませる。中におる民を引き揚げてしまうのじゃ。さすれば、城内に残るは大沢の者のみになる。落とすのはたやすかろう」
家康の策をすぐに理解した数正が続ける。
数正「そして、その大沢の武将たちの首と引き換えに大沢の降伏を求める」
家康「中村屋とやら、それでは船を借りられるか?」
中村屋「もちろんでございます!」
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南渓「おったか?」
直虎は井戸端を散策しながら政次を探していた。
直虎「昨夜、確かにここで待っておると言うたのですが…」
南渓「…そうか、おかしいのぅ」
そのとき、「もし」と声が聞こえた。
直虎が笑顔で振り向いた。そこにいたのは政次ではなく、目付の鈴木だった。
鈴木「あの、お渡ししたいものがございまして」
申し訳なさそうに、折り畳んだ紙と碁石を一つ、直虎に差し出した。
鈴木「但馬殿の辞世だそうです」
直虎「……辞世?」
直虎はきょとんとした。
「何故、辞世などがあるのじゃ」
鈴木「牢番の者が捨てるにも忍びないと…」
直虎「牢? どういうことじゃ?」
鈴木「但馬殿が最後に入れられておった…」
ここまで話して鈴木もようやく直虎の異変に気付いたようだ。
南渓「鈴木殿、私がお預かりしておきます」
紙と碁石を預かって直虎を見やると、両手で頭を抱え込んでいる。思い出そうとしてもなかなか思い出せないのであろう。
南渓「次郎、失礼するか」
言いかけたところで、直虎が南渓の手から紙を奪い取った。
天伝う日ぞ楽しからずや
「…白、黒を……白黒……」
歌の意味を理解した瞬間、直虎はすべてを思い出した。
城の門前で政次に逃げろと怒鳴ったこと。
直虎の代わりに政次が牢に入れられたこと。
そして井伊を、直虎を救うために政次が犠牲になったこと。
直虎「…あぁ、もう、おらぬのでしたね、但馬は…」
すべての罪を背負って、見せしめとなって、たった一人で。
約束したのに。政次は笑ったのに。明るい陽の光の下で、碁を打とうと。
渡された碁石を握りしめ、直虎ははらはらと涙をこぼした。
寺に戻った直虎に付き添っていた昊天が、一人部屋から出てきた。
南渓「次郎は落ち着いたか」
昊天「はい。ようやく今、横になりました」
傑山が政次の辞世を昊天に渡した。
読み終えた昊天は、そっと目頭を押さえた。
昊天「良い歌ではないですか。あの世でゆるりと待っておるゆえ案ずるな、と」
傑山「うむ。鶴らしい」
2人は幼いときから政次を知っており、その死は痛ましくもある一方、己を貫き通した清々しさもあった。
直虎が正気に戻ってからが辛い日々になるだろうことは、皆十分に分かっていた。
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その頃、龍雲丸たちは大沢の兵が占拠している堀川城に忍び込んでいた。
城のかがり火を消すと同時に、大沢の兵たちを次々と湖に突き落としていく。
松明を持った兵が駆けつけてきたが、龍雲丸はからくも逃げ出した。
一方で、ゴクウと力也が、捕らえられた気賀の民を逃がそうと隠し港のほうへ誘導していた。
すると、こちらに向かってくるいくつかの船の姿が見えた。文字通りの助け船だ。
乗り切れなかった民を助け船に誘導しようとした瞬間、船から飛んできた矢がゴクウの胸に突き刺さった。
「ゴクウ!」
雨あられのように矢が降り注いだ。
龍雲党の仲間や民たちがバタバタと倒れていく。
「何故、中村屋が!?」
誰かが叫んだが、力也にも何がなんだか分からず混乱していた。
家康に堀川城攻めを任されたのは酒井忠次だった。
忠次は城が見下ろせる場所に本陣を置いた。
「第一陣が裏手から城に攻め入りました」
伝令を聞いた忠次は、続いて言った。
忠次「よし、そのまま攻め落とせ」
方久「……え?酒井様…」
忠次「なまぬるい仕置きでは大沢は下りはせぬ。見せしめがいる」
方久「しかし、気賀の民はお助けくださると、徳川様は…」
忠次「手向かいをした。それまでのことじゃ」
恐ろしいほど冷たい目で方久を見やった。
龍雲丸は傷を負ったものの、城の一角に逃げていた。
眼前に広がる光景に呆然とした。
潮が引いた中洲では、徳川兵と大沢兵が泥だらけになって戦っている。
閉じ込められていた民は、追い詰められた結果、徳川兵にも大沢兵にも手向かっている。
見えるだけでも死傷者は数え切れないほどだ。まさに地獄絵図だ。
そんな中に、怪我を負っているカジの姿が見えた。側にはモグラが倒れており、カジは兵に取り囲まれていた。
龍雲丸はすぐそばに倒れている兵から刀を奪うと、カジのもとへ走った。
カジが斬りかかられる直前、背後から龍雲丸が敵を倒した。
龍雲丸「カジ!大事ねえか」
カジ「へぇ」
龍雲丸「よし、逃げ…」
その瞬間、脇腹に鋭い痛みが走った。
「ああああああああ!」
直虎は自分の悲鳴で飛び起きた。
「どうした! 苦しいか?」
南渓が飛んできた。
直虎「夢を、見て…人を、殺す夢を…」
直虎は手で顔を覆った。
背後から刀で男を刺した夢だった。
南渓「たかが夢じゃ、次郎。朝が来れば終わる。終われば、わしらがおる」
直虎「…はい」
そこに足音が響いた。
「お、和尚様! 和尚様はおられますか!?」
方久の声だ。
戸を開けると、ボロボロの方久と辰がいる。
南渓「どうしたのじゃ、その格好は」
方久「気賀が…気賀が、徳川に襲われました!」
南渓「襲われた!?」
夢の中で倒れていった男は、やはり龍雲丸では…!
「次郎!」
直虎は考える余裕もなく駆け出していた。
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サウンド・トラック