7月23日放送の大河ドラマ「おんな城主 直虎」
第29話「女たちの挽歌」の詳細なあらすじです。
前回(第28話)はこちら。
おんな城主 直虎 第28話のあらすじ「死の帳面」
ネタバレ注意!
おんな城主直虎 第29話「女たちの挽歌」あらすじ
戦をここでとどめるというお考えはないか。例えば御家が、上杉家と結ぶなどして──。
直虎(柴咲コウ)は家康(阿部サダヲ)宛てに書状を書き、傑山(市原隼人)に託した。
傑山が持ち帰った返答には
「すぐには返事できぬが、考えてみる」
という内容が書かれていた。
三河から戻った傑山の顔は、確信に満ちていた。
ところがその後、三河からの音信は滞ってしまった。
政次(高橋一生)が、駿府からの知らせを直虎に届けた。
政次「大方様がみまかられたそうだ」
直虎は絶句した。
この混乱のさなかに亡くなるとは…。
尼御台や女戦国大名と呼ばれた寿桂尼(浅丘ルリ子)との思い出をたどりながら、直虎は経を読んだ。
数日後、徳川家に出入りしている山伏の松下常慶が、龍潭寺を訪ねてきた。
常慶「お返事が遅くなり申し訳ございませぬ。三河ももめておりまして」
常慶「徳川様はその進言を認め、上杉と誼を通じるべく、密書まで送らせました。しかし、同じ頃、武田からも話が来たのでございます」
話とは、こういう内容のものだった。
武田と徳川が同時に今川領に攻め込んで、一気に攻め落とすのだという。
そして、大井川から西は徳川、東は武田で切り取ろうという。
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この話に、徳川の家内の意見は割れた。
最終的には武田に従うことになったというのだ。
直虎「…では、戦になるのはもう避けられぬと」
常慶「恐らくは今年のうち、遠江には徳川が攻め入ることになろうかと。井伊はそれでも、今川方として戦うおつもりかと、確かめに参ったしだいにございます」
直虎「それでも? それでも、とは?」
常慶「あの書状は明らかに今川にお味方する者のご意見かと」
直虎「戦そのものを避けたかったというだけじゃ!」
常慶「では、徳川にお味方なさいますか?」
直虎は逡巡したが、もう引き返すことはできないだろう。
直虎「…できれば…さようにと考えておる」
常慶「では人質に、虎松様の母君を頂きとうございます」
直虎はうろたえた。
直虎「お待ちあれ、何ゆえ人質を渡さねばならぬ!」
常慶「書状のことのみならず、井伊は今川から離れぬのではないかとも見られておるのでございます」
直虎「しかし、今川の手前、人質を三河によこすわけにもまいらぬであろう」
常慶「私の実家の松下ではどうかと。ちょうど兄が後添えを探しておりまして。そこに嫁ぐという形ならば、まず目に留まることはないかと」
直虎「虎松には父がおらぬ。このうえ母まで奪えと、そう言うのか!」
常慶「では、お考えくださいませ。また参ります」
直虎の言葉を避けるように、常慶は辞去した。
入れ違いに政次が入ってきた。
政次「勇み足となってしまいましたな」
直虎「あの書状が、かようなことになるとは…」
政次「言いにくければ、私からしの殿(貫地谷しほり)に言いましょうか。太守様より下知が下ったとでも」
直虎「われから言う。せめて罵りくらいは受けねばの。直親は…草葉の陰で怒っておろうな」
直虎は、しのに正直に打ち明けた。
しのは大きな溜め息をついてから語った。
しの「要するに、殿が大それたことをおやりになったせいで、私を人質にという話になってしまったということにございますか」
直虎「まこと、もう、どう詫びてよいものやら…」
しのは少々言葉を荒げたが、最後にこう言った。
「虎松には、なんと話せばよろしゅうございますか?」
思わぬ言葉に、直虎はおそるおそる顔を上げた。
直虎「行ってくれるのか?」
しの「こうなれば、致し方ございませんでしょう」
直虎は胸が痛みながらも、同時に安堵の感情が芽生えた。
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数日後、虎松(寺田心)が飛んできた。
虎松「母は行きたくないそうです。今すぐ、取り消してくださいませ!」
直虎には、しのの真意がわからなかった。
虎松にも分かるように、丁寧に事情を説明した。
虎松「それは、人質というものではないですか?」
直虎「武家の婚儀というのは、得てしてそういうものじゃ」
虎松「嫁ぐのは母上でのうてはならぬのですか?」
直虎「井伊にとって大事なお方なら構わぬが…」
虎松は知恵を絞って考えた。
祐椿尼様は? 出家しておられる。
高瀬様は? 年が釣り合わぬ。
ならば殿は?殿もおなごではないですか!
直虎「われが行ってしまっては、誰が殿をやるのじゃ」
悩んでいる虎松の姿を見ていると、不憫でならない。
しのの真意を探るために、直虎はしのの館を訪れた。
しの「少し焚きつけすぎたようです」
冷静な声で言った。
しの「いずれ虎松は当主となる身。近しい者を人質に出さねばならぬということを考えるよい機会とも思いまして。あえて行きたくないと言うてみせたのです」
嫁ぐ覚悟はできているし、虎松にも最終的には言い含めるつもりだ。
しのはそう言うと、姿勢を正して続けた。
しの「私が嫁ぐということを、うまく取り引きにお使いください。井伊のためになるように。…そして、いつかその話を虎松にしてやってくださいませ」
直虎は涙が溢れそうになった。
必死でこらえ、作り笑顔で「心得た」と返した。
「さんざん考えてくれて、母は嬉しく思いますよ」
うつむいている虎松に、しのは優しく語りかけた。
しの「じつは、虎松が考えている間に、母も考えたことがあるのです。…やはり母は行きたくなってしまったのですが、行ってよいですか?」
虎松「な、何ゆえに!」
しの「父上の望みだからです」
驚く虎松に、しのは冷静に言った。
しの「そなたの父上は、あるお家と仲良くしようとし、殺されてしまいました。…こたび母が嫁ぐのは、そのお家と再び仲良くするためです」
虎松「嘘じゃ!」
虎松が叫んだ。
虎松「母上は虎松と離れたくないはずじゃ。母上は虎松のことが一番お好きなはずじゃ。一番大事なはずじゃ!」
しのは大切なわが子を抱きしめた。
しの「虎松は母の宝です。だからこそ大事にしたいのです」
虎松は黙って聞いている。
しの「母は力強い味方をつくってやりたいのです。母が嫁げば、そこは井伊のお味方の家となるし、子ができれば、そなたの兄弟が増えます」
このまま虎松と暮らしたい。それがしのの本心だったが、それはできない。
しの「笑って送り出してはくれませぬか?」
両腕を目いっぱい広げて、虎松が抱きついてきた。
虎松「お行きになるまで、毎晩虎松とともに寝てくだされ」
しの「もちろんですとも」
虎松を抱きしめながら、しのは静かに涙をこぼした。
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直虎「しの殿は、松下のお家に差し上げまする」
龍潭寺を訪れた常慶に言った。
直虎「しかし、一つだけ望みがある。徳川が攻め入ってきた折、われらは城を明け渡し、逆らいはせぬ。されどその先、兵を出すこともせぬ」
常慶「…徳川に加勢はなさらぬ、と。しかしそれでは、新たな地の安堵などはできかねますが」
直虎「今以上の安堵は望みませぬ。…井伊の目指すところは、民百姓一人たりとも殺さぬことじゃ」
常慶「…それが井伊の戦い方なのでございますね」
直虎は強く頷いた。
夏になり、しのは松下家へ嫁いだ。
虎松を井伊の居館に迎え入れ、優しく語りかけた。
直虎「今日からは、われがそなたの養母となるが、母とは思わんでよい。われには、しの殿の代わりはできぬし、われのことは父と思うてほしい」
虎松「…はい!」
井伊家の宝は元気よく答えた。
その頃、駿府では事件が巻き起こっていた。
武田家家臣・山県昌景が駿府を訪れ、「遠江を割譲しろ」と言ってきたのだ。
山県昌景「今川様は当家と和睦をなさったにも関わらず、上杉と結ばれておるらしいとのこと。しかしながら、遠江を武田に渡してくだされば、忘れてもよい、と我が主は申しております」
すると、廊下に干し首が二つ転がった。
そこには今川の家臣・朝比奈泰勝が鬼の形相で仁王立ちしている。
朝比奈家は代々今川に仕えており、泰勝は氏真の忠実な側近でもある。
泰勝「そちらが調略された当家の家臣の首じゃ! 和睦を破っておられるはどちらか! 主に問うてみるがよろしい!」
山県昌景「…は。では、さようにいたします」
山県昌景はしてやったりという表情で、干し首と共に帰っていった。
これにより、今川と武田の決裂は決定的なものとなった。
とにかく戦に持ち込みたい信玄の策に、見事に乗せられてしまったのだ。
関口「なんということをしでかしたのじゃ! 太守様が必死に戦を避けようとしておられたことは承知であろうが!」
泰勝「あまりの言いぐさに、腹を据えかねて…」
氏真「…もうよい。余とて思いは同じじゃ。もはや、戦しかあるまい」
さすがの氏真も腹をくくっていた。
氏真「上杉、北条を味方とすれば負けるとは限らぬ。国衆どもを呼び、戦備えを申し付けよ! 内通が明らかとなった者はためらわず斬れ!」
関口「大方様が言い残されました、例の井伊の件はいかがしましょうか」
氏真「進めよ」
寿桂尼が残した死の帳面。
女傑が仕掛けた罠が、井伊に降りかかろうとしていた。
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