方久と六左衛門が矢継ぎ早になだめる。
「そこをなんとか!」
「このままでは直虎様の首がすげ替えられてしまいます。首が飛んでしまうかもしれませぬ!」[pc]
駿府に向かっていた直虎は、宿として利用した寺で、考えていた策を実行した。
毒薬を自ら飲み、わざと高熱を出したのである。捨て身の策だった。
訪れた政次に、直虎は打ち明けた。
直虎「これで二日三日は稼げるであろう」
政次「なんという無茶を…」
直虎「もし、うまくいかなかったときは…そのときは井伊を頼む…」
政次は驚いた。
しばらくして小さく頷いた。
直虎が目を閉じると、すぐに額に手を置かれるのを感じた。
政次「俺の手は冷たかろう」
直虎「…うむ。血も涙もない鬼目付じゃからの。政次は、昔から誰よりも冷たい…」
三日経って、直虎の熱は下がった。
直虎は直之を引き連れて今川の居館に向かった。
平伏している直虎に、関口が「面を上げよ」と声をかけた。
そこには氏真(尾上松也)がいた。
氏真「二十年ぶちかの。会うたのは」
直虎「はい、さようで。お久しゅうございます」
氏真「今日は鞠では落着せぬぞ」
龍王丸と呼ばれていた頃の幼い氏真の面影がふっとよぎった。
直虎「成川屋が三河と通じておりました件は、当家も、仲立ちをした中村屋も、あずかり知らぬことでございました。何とぞ、太守様のご容赦を頂ければと存じます」
氏真は上座から見下すように視線を送っている。直虎は続けた。
直虎「せんだっては、新野の娘と庵原様とのありがたきご縁談も頂き、ともにますます太守様のために励もうと誓いましたばかり。さような井伊が何ゆえ、今さら謀反などを企みましょうや」
氏真「信じてやりたいところじゃが、遠江で最も早く三河に通じようとしておった井伊であるからのぅ」
偽者とは知らずに松平元康(徳川家康)との密談に出向いた直親(三浦春馬)のことだった。
直虎「悔しゅうございます」
直虎は怒りを押し殺しながら言った。
直虎「井伊と今川に遺恨がないといえば偽りになりましょう。なれど私は、家督をお認めいただいてからは、心を入れ替え、尽くそうとしてまいりました。弓を引こうと考えたことなど一度もございませぬ」
止まらなくなった直虎は、なおも続けた。
直虎「間者と知らず乗せられたは私のうかつにございましょう。なれど、かようなやり方は、今川は真に忠義なる者を失うこととはお考えにはなりますまいか!」
直虎に凝視され、氏真はひるんでいる。
そこへ、今川の家人が駆け込んできた。
「おびただしい材木が、こちらへ向かっております。すべて『井』の印がついておるそうにございます!」
六左衛門から龍雲丸に託していた策が間に合ったのだ!
直虎は全身の力が抜ける思いだったが、息を整えると、こう切り出した。
直虎「井伊の心をお示ししたく、三河より一本残らず取り戻すよう、わが家臣に命じましてございます。これが井伊の忠義にてございます!」
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