翌朝、直虎は傑山(市原隼人)と昊天(小松和重)、小坊主たちを引き連れて、瀬戸村へ向かった。
若い苗は育ちすぎると、田に根付きにくくなり、稲の実りも少なくなってしまう。
村から逃散した百姓たちも、苗の様子が気になって焦り、きっと戻ってきてくれるだろう。
直虎はそれに賭けたのだ。
直虎たちは、田植えを始めた。
すると、すぐに人の気配を感じた。
直虎が見やると、大勢の百姓がこちらを見つめている。
直虎「お主らの稲が育たねば、われらも困るからな。勝手だが田に入らせてもらった」
老農夫の甚兵衛は、拳を握って言った。
甚兵衛「直虎様は借金のかたに方久に瀬戸を売ったんでぇ。かような狂言で、わしらがほだされるとお思いけ!」
直虎「確かに私は瀬戸村と祝田村を方久の土地とした。だがそれは、井伊の借金をなくすためではない」
方久には年貢が入り、それによって百姓の返済を猶予させる。
このことを丁寧に説明した。
甚兵衛「ふんでも、借金はなくなりゃあせんにぃ!」
徳政のほうがいいと言う百姓たちを、直虎は一喝した。
直虎「方久は欲深じゃ。なれど村を任せれば、そなたらが今より潤い、おのずと借りが返せるような仕組みを作ると言うてくれた」
甚兵衛「そんだって、禰宜様は…」
直虎「われと禰宜と、どちらを信じる!」
直虎は続けた。
「まず、村を潤し、それは方久を潤し、やがては、井伊を潤す。われは皆と、そんなふうに井伊を作っていきたいと思うておる」
百姓が1人、また1人と田に足を入れ、田植えを始めた。
いつしか皆が横一列になって、並んで田植えをしていた。
直虎は、体中の力が抜けるのを感じた。
何日も続いていた緊張がほぐれ、安堵の表情で田植えの情景を眺めていた。
奥山六左衛門も田植えの列に加わっているのが見えた。
翌日、直虎は百姓たちと話す場をあらためて設けた。
望みはないか尋ねると、若い百姓が言った。
百姓「字を教えていただきてえで。文書くときもさ、皆でさんざ難儀してやあ」
間違いだらけの文を思い出した。
直虎は笑いながら、南渓に頼んでみると誓った。
新野の娘と、しのの土地についても結論を出した。
それぞれ祐椿尼(財前直見)の所領とすることと、川名の一部を渡すことで決着させようと考えていた。
ところが、しのの考えは頑なだった。
しの「祝田をお返しくださらぬかぎり、直虎様を虎松の後見とは認めませぬ!」
しのとともに、もう一つ大きな懸念があった。
徳政令発布を無視された今川の反応だ。
それは、最も恐れていた形で、井伊に襲いかかることになるのである。
[次回] 第15回のあらすじとネタバレ!「おんな城主対おんな大名」
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