裏切り
信繁の危惧が現実となった。八左衛門の合図で、配下の兵たちが抜刀して真田一行を取り囲んだ。
「殺すな!生け捕るのじゃ!」
信幸、信繁、三十郎らは、薫たちを守りながら必死に戦うが、多勢に無勢で次第に追い詰められていく。万事休すかと思われたそのとき、昌幸が一隊を率いて駆けつけた。
「迎えに参ったぞ!」
真田と八左衛門の兵たちは激しい攻防を繰り広げた。その渦中、松や薫を連れ去ろうとした八左衛門の兵を、信繁はためらわずに切り捨てた。
形勢が不利になった八左衛門が配下の兵を連れて逃げていくのを、昌幸は深追いしなかった。
「わしにとって何より大事なのは、真田の一族じゃ」
幸い家族にけが人はなく、信幸と信繁は安堵の息をついた。ただ、勝頼の自害を知ると、痛ましさに胸が塞がった。
不忠者
武田家が滅び、その領国はほぼ織田の手に落ちた。織田信忠が甲斐の善光寺に入ると、小山田信茂はすぐに拝謁を求め、織田家への従属を誓った。
ところが、信忠は斬首を言い渡した。
「長年の恩を恩とも思わず、主君を裏切った逆賊。われらに、そのような不忠者は要らぬ」
木曽義昌や穴山梅雪は、織田方の調略によって寝返った。それが、最後に主君・勝頼を見捨てた信茂との決定的な違いだ。信茂が一益の家臣たちに引きずられていくのを、茂誠は茫然と見ていた。
軍議
織田勢が岩櫃城を攻めてきた際、真田は討って出るべきか、籠城して戦うべきか。昌幸は軍議を開いて重臣たちの意見を求めたが、信幸をはじめ皆黙り込んでいる。
「……さて、どうしたものか」
昌幸が思案顔をした。
信繁は次男であり、軍議の場に呼ばれることはほとんどない。刀の手入れをしながら、三十郎を相手に、信繁なりに織田の行動を予想していた。
「武田を滅ぼしたあと、織田が真っ先にやらねばならないことは何だ。甲斐を治めること。攻めてくるのは、そのあとだ」
軍議を終えた昌幸は、今、何をすべきか、1人策を練った。主君である武田家を失い、昌幸は真田家当主として人生最大の岐路に立たされている。やがてある結論を導き、信幸と信繁を居室に呼んだ。これからは、1つ打つ手を誤ると真田の滅亡につながる。心してかからなければならない。
「御屋形様はわしを見放された。このうえは、織田と戦ういわれはない」
昌幸は、2つの道があると言う。
「北の上杉景勝のもとへ身を寄せるか、はたまた、東の北条氏政のもとへ行くか」
武田と上杉は同盟を結んでいて、同義を尊ぶ家風から温かく迎えてくれるだろう。北条とは、昌幸の実弟・信尹の働きにより水面下で気脈を通じてきた。やはり、真田を受け入れてくれるはずだ。だが見方を変えれば、上杉につけば織田との戦の矢面に立つことになる。また北条はすでに織田に臣従していて、真田を信長に突き出しかねない。
信幸と信繁とでは意見がまとまらず、ついに昌幸が第3の道を決断した。
「真田は織田につくことにする!」
(続き:第3話)
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