6月9日。伊達政宗が秀吉のもとを訪れ、純白の死に装束を身に纏って恭順の意を表した。
ついに東北の雄が降服したことで、戦を長引かせる必要がなくなった。
秀吉が小田原城攻めを決意しようとしていた時、吉継が発言の許可を求めた。上杉軍が目指している忍城や鉢形城といった北条の残った城を先に落としてはどうかと言う。
「そうすれば、氏政や氏直は進退窮まって、小田原城も無血開城となりましょう」
この策に家康も同意した。
三成は自陣に引き篭もって、戦が長引いたことによる算段の見直しをしている。
三成は頭が切れ、政の手腕には誰も疑うことがないが、戦の現場の最前線で采配を振るった経験はほとんどなかった。
そんな三成を思った吉継は、石田治部に忍城攻めを任せるのはいかがかと、秀吉に提案した。秀吉はあっさり了承し、すぐに三成は武蔵へ向けて進軍した。
三成が上杉の陣に到着すると、なかなか落城できない不手際を責めた。
忍城は自分が4日で落とすと言い出した。利根川の水を引き入れ、水攻めにするのだと言う。
その上で、上杉と真田には鉢形城と八王子城を落とすよう指示を出した。
伊達政宗が秀吉に屈したという知らせが氏政にも届いた。氏政は顔を強張らせ、降服するぐらいなら腹を切る覚悟だ。江雪斎は、お二人のお命をお守りするためにも、徳川殿に嘆願すると申し出た。江雪斎の必死の説得に、氏直は降服する方向へ気持ちが傾いていった。
氏政も思案を重ねた結果、秀吉への臣従を認めるようになっていた。ただ、降服には一定の条件を設けるという。上杉と同等の扱いで、本領は安堵し、豊臣家の重臣として丁重に扱うように、というハードルの高い条件だ。
秀吉は当然のように、その条件を一蹴した。
6月17日。家康の使者が小田原城内に入って、降服の話し合いが始まった。氏直は受け入れる構えだが、氏政は条件が受け入れられないのなら、討ち死にする覚悟だという。降服の説得を続けるも埒が明かない日々が続き、信繁は吉継と家康に呼び出された。小田原城内に入って、氏政を説き伏せてくるという大役を命じられた。家康と吉継の思いが綴られた書状を持って、信繁は小田原城へと向かった。
その道中、本多正信が待っていた。信繁が向かうことになったのは、江雪斎からの要請があったからだと打ち明けた。驚く信繁を横目に、正信も思いだと告げた。
小田原城では江雪斎が待っていた。沼田裁定での活躍を見込んで信繁を呼んだのだと言う。江雪斎自身が氏政の説得を何度も試みたが、江雪斎の言葉では氏政に届かない。追い詰められたときは、しがらみのない者の言葉に心を動かす、という江雪斎の言葉に、信繁は覚悟を決めた。
城内の家臣の中には、いまだ降服に反対している者も多数いると言う。江雪斎がそう警告した矢先に、北条の家臣数人が襲い掛かってきた。同行していた佐助が敵を撹乱し、その隙に信繁は廊下を進んで行った。すると、何者かに腕を掴まれた。
それは小山田茂誠だった。
(続き:第24話)
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