11月5日放送の大河ドラマ「おんな城主 直虎」
第44話「井伊谷のばら」の詳細なあらすじです。
前回(第43話)はこちら。
おんな城主 直虎 第43話のあらすじ「恩賞の彼方に」
ネタバレ注意!
おんな城主直虎 第44話「井伊谷のばら」あらすじ
天正6(1578)年。
18歳となった万千代は、2つの大きな変化を迎えた。
1つは、万福ともども臨んだ、甲冑の着初め式。武家の男子が初めて甲冑を着用するときに執り行われる儀式で、これには家康みずからが同席した。
「両名とも立派な立派な武者ぶりである。鬼神のごとき働きを期待しておるぞ」
もう1つが、これも生涯に一度だけの初陣である。場所は、武田が遠江攻略の拠点としていた田中城だ。
万千代「田中城は堀が三重にも巡らされた城らしいぞ。どうやって攻め落とすのであろうな!」
やる気満々、意気込んで出陣した万千代だったが、大きな落胆を味わうことになる。戦はおろか、軍議にも参加できず、腫れ物に触るように扱われるばかりなのだ。それもこれも、万千代が家康の寝所に1人呼ばれたあの夜から、周囲が万千代を色小姓、すなわち男色の相手と見ているせいだった。
「けがをさせては、われらが叱られるゆえ。の」
俺も悪い。よく分かっていた。家康の威を借り、他の小姓たちのいびりや圧力から自身と万福を守るため、誤解をそのままにしてきたのだ。
しかし、殿のおそば近くに仕えて早4年。小五郎たちは、ほかのお役目を賜り城を出ていったのに、われらだけがいまだ小姓の身分とは。こうなったら…。
「戻ったら、殿に元服を願い出たほうがよいかもしれぬ。このまま色小姓扱いされておっては、寝所に閉じ込められ、俺の徳川勤めが終わる気がする…」
城攻めには信康も加わっていた。前に岡崎を訪れたときにも同座していた、近藤武助という者を従えている。明らかに年下のその男でさえ、前髪を落としていた。
そろそろ私も元服をと、家康への口添えを懇願する万千代に、信康はにこやかに返した。
信康「父上は、お主を戦に出したくないのかもしれぬ。戦に長けた者は他にもおるゆえ、それ以外を求めておるのではないか、ということじゃ」
戦以外で思いつくのは、夜番をすることくらいだった。ならば徹底的にやってやる。万千代は、万福と交代で寝ずの番を務め始めた。不穏な気配を感じたのは、疲れ果て、寝所で横になっているときだった。
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変事は井伊谷でも起きていた。龍潭寺の門前に建つ松岳院で寝起きしている祐椿尼が、にわかに胸の痛みを訴え、床に伏せってしまったのである。
昊天から容態を聞いた南渓が、ぼそりと呟いた。
「年も年じゃし。天寿と考えてよいのではないかの」
直虎の動揺は大きかった。せめて、親孝行の一つもしたい。母が何より愛したものといえば…花だ。見舞いに来てくれたなつに、直虎は願いを述べた。
直虎「これからは知らぬふりで、世間話をしにでも来てもらえるとありがたい」
いつも花が咲いているように、母の周りに必ず誰かにいてほしい。そんな思いを、なつはすぐに察した。
なつ「あやめ様にもさようにお知らせしておきます。兄から、高瀬様にも中野様にも」
直虎は涙をこらえながら、「かたじけない」とだけ言った。
「く、くせ者! くせ者を捕らえたり!」
夜の陣所に悲鳴混じりの万福の声が響いた。
「各々方、お出会い召されぇ!」
家康をかばってざくりと斬られた肩から鮮血が噴き出している。痛みも感じず、万千代は全力を振り絞って相手の体にのしかかり、己の喉を突こうとしている小刀をもぎ離して寝所の隅へ投げ捨てた。
蒼白な顔をゆがめ、必死でもがく男には見覚えがあった。信康に付き従っていた若武者の武助であった。
騒ぎはほどなく鎮まった。万千代が肩の傷の手当てを受けているところに、榊原康政が入ってきた。
康政「つらいところすまぬが、くせ者の詮議をしておる。あの者のたくらみにどうやって気付いた?」
万千代「薬箱の口金が逆さになっておって。それで誰かが薬箱に触れたのだと」
調べてみると、やはり混ぜ者がしてあった。何者かが、万千代が井伊の薬で殺したということにして、家康を亡きものにしようとしているのは間違いなかった。
そこで万千代は、寝所に戻った家康が薬湯を所望したとき、寝入って目が覚めないふりをした。万福が、代わりに作れる者を探しに行き、じきに戻った。
目を閉じたまま、万千代は薬湯をいれる音を聞いた。
「出来上がりました。どうぞ」
その瞬間、目を開き、相手の手首を掴んで言った。
万千代「そなた、まず毒味をしてみよ」
追い詰められた武助は小刀を出し、家康を襲おうとした。それを万千代が体を張って阻止したのだった。
康政「とにもかくにもご苦労であった。しばし休むがよい」
最後まで聞かず、万千代は眠りに落ちていた。
松岳院で暮らす祐椿尼の周りは、直虎が願ったとおり、人また人で溢れ返っていた。花を習っている高瀬。まくわうりを抱えてやってくる六左衛門と直之。数年前に夫婦となった方久とあやめ。見舞いの品は、多くのつぼみをつけた薔薇だった。
「名は長春。それはそれは艶やかな花がつきますよ」
なつ、そして、しのまでが、しばしば姿を見せた。
「虎松や亥之助は、息災にしておりますか?」
「はい。殿の覚えもめでたく。なんでもこの間、戦場で殿をお守りし、知行一万石を賜ったそうで」
「一万石!?」
何も聞いていなかった直虎は、驚きに腰を抜かした。
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わが身への沙汰が、万千代はまだ信じられずにいた。一石は、大人の男一人が一年に食う米だ。つまり俺は、一万の民を有する領主と同じ身上になったのだ…!
だからといって領主になれたわけではない。元服がかなえば、むろん井伊家の当主になれる。だが…。
「となれば、若、おとわ様に家督を譲ると言っていただかなくてはならぬのでは?」
直虎の顔が浮かび、万千代は地団駄を踏んだ。
「ここであの意地悪ババアに手綱を握られるとは…。井伊万千代、一生の不覚!」
そこに当の直虎から文が届き、万千代は肝をつぶした。祐椿尼が病床にあることを伝えるものだった。
直虎と万千代は、龍潭寺の井戸端で手を合わせた。二人の話は全く、悲しいほど噛み合わなかった。
皆でうまく取り仕切っている井伊谷に、要らぬ波風を立ててほしくないと願う直虎と、いずれは父祖伝来の地を取り戻したいと心中深くで切望している万千代とでは、それも仕方のないことだった。
直虎「さような考えなら、家督は決して譲らぬぞ」
万千代「望むところです。ならば力ずくで引きはがすまで」
直虎「…できるものならやってみるがよい」
最後は喧嘩別れ同然となった。顔を合わせて、かえって溝が深まったのを二人とも感じただけだった。
秋のある日、祐椿尼は静かに旅立った。
幸せとはいえぬ人生を娘に送らせてしまった、と涙ぐむ母に語ったみずからの言葉を、直虎はその後、何度も思い出した。
「もし私に兄や弟がいて、どこぞの殿方に嫁ぎ、館の奥で過ごしておったならば、百姓たちはただ米を運んでくる者と思うておったでしょう。ならず者たちは世を乱す悪党。商人は銭ばかり追い求める卑しき者。乗っ取りをたくらむ家老は敵。そこにそれぞれの人生や思いがあるなどとは思いを馳せることすらせず…」
出会い、別れてきた人たちの顔が浮かんでは消えた。
「私は幸せにございますよ、母上。この人生をお与えくださり、かたじけのう存じます」
祐椿尼が息を引き取った直後、一斉にばらが咲いた。名の長春は、四季を通じて花がある意味だという。
母上、あなたそのものではありませんか。淡い紅色の花に向かって、直虎は静かに手を合わせた。
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