10月29日放送の大河ドラマ「おんな城主 直虎」
第43話「恩賞の彼方に」の詳細なあらすじです。
前回(第42話)はこちら。
おんな城主 直虎 第42話のあらすじ「長篠に立てる柵」
ネタバレ注意!
おんな城主直虎 第43話「恩賞の彼方に」あらすじ
小姓として出仕した万千代と万福の初仕事は、戦の手柄あらための手伝いであった。
武家それぞれが戦でいかなる武功をあげたかをじかに申し立て、働きが認められれば新たな知行や恩賞を与えられる。徳川の直臣や味方した国衆がどっと押し寄せ、浜松城は大変な騒ぎとなった。
他の小姓たちとともに2人は来客の案内と控えの間での応対を命じられた。
廊下を早足で歩いていたとき、蛮声が轟いた。
「いつになれば中に入れるのじゃ!」
2人は顔を見合わせ、玄関へ急いだ。
思ったとおり正信がてんてこ舞いの大混乱に陥っていた。
「大事ないか、ノブ殿!」
「名を聞き、紙に記さねばならず、どうにも」
草履番が板につき、誰が何時に現れるかを推量するという特異な能力も発揮する正信だが、普段は登城しない者たちがこうも多く詰めかけたのでは、1人ではどうしようもない。
万千代は声を張り上げた。
「皆様、本日はご苦労さまにございます。お手数ではございますが、一つお手をお借りしとうございます!」
名を自分で書かせればよい。万千代は頭を下げつつ、一同に紙を渡して回った。何の事はない、元の草履番をやっているのだった。
井伊谷の山中では、異変が生じていた。
前夜に降った少量の雨で、山崩れが起こったのだ。
「木を切りすぎたためなのですかの」
同行する六左衛門が言った。
大雨が襲えば、何が起こるか知れたものではない。直虎は低く命じた。
直虎「次は山崩れが麓まで及ばぬとも限らぬ。危うそうな村には雨の折に注意するよう、呼びかけてくれ」
先手も打たねば。山崩れを防ぐに詳しい者は誰かいなかったか…。思いを巡らせながら、直虎は歩き出した。
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めまぐるしい1日が終わり、万千代は考えに沈んでいた。朝方目にした、家康の寝所での情景が頭に浮かんだ。洗顔を手伝う者、着物を着せる者、髪を整える者、掃除をする者などがおり、割り込む隙はなさそうだった。
ならば、新たな役目を作るとするか。
一計を案じ、用意を整えると、万千代は家康の寝所に向かった。案の定、小五郎たちが邪魔に入った。
小五郎「ならぬ、一小姓が薬を差し上げるなど! もしものことがあればいかがするつもりじゃ!」
笑って受け流すと、万千代は家康に向かって言った。
万千代「ひめはぎの薬湯にございます。疲れが取れ、気が回復すると」
家康「では一つ、煎じてくれ」
火を噴きそうな目をした小五郎たちを部屋から追うと、家康は書類に目を通しながら、万千代がいれた薬湯を毒味もさせずに飲んだ。
家康「薬には明るいのか」
万千代「井伊の寺に詳しい僧がおりましたので。一通りのことは教えてもらい、城に上がる際に少し持たせてくれました。…殿もお薬にはお詳しく?」
家康「さほどでもないが、養生には多少興味があるかのぅ」
万千代は内心で快哉を叫び、家康の様子を観察した。手柄あらための記録を見ては、頭を整理するための覚書を起こしているようだ。よろしければ、と声をかけてみた。
「私が、おおまかに比べたものをお作りしましょうか」
家康がこちらに目を向けた。
万千代「例えば縦にお家の名を並べ、横に首の数など働きを種別に記します。それをざっと見渡せましたら、お考えも進むのではないでしょうか」
家康「…うむ。では、頼む」
翌朝、万千代はみずからの考えを万福に明かした。殿に薬をお出しする役を得たい、という内容だ。
万福「よいのではないですか? おとわ様にお頼みして、井伊谷から薬を取り寄せれば」
問題はそこだ。この間の材木の件ではしてやられた。こたびも薬の調達を申し入れれば、あの尼によって、近藤からの寄進だなどと捻じ曲げられるかもしれぬ。
万福「あ、では方久にじかに頼んでみては」
万千代「それは銭がかかるではないか」
なんとしても、井伊の手柄にしなければならない。ただで薬を巻き上げる方法はないものか…。
それに応えるように、城に顔を出した人物がいた。
「実は井伊のほうから、土砂止めの指図をしてほしいという頼みが来ての」
しかし今は井伊に出向く時がとれない。であれば、絵図にして送ればいい。そう思いついた常慶が、万千代の書画の腕前を思い出し、訪ねてきたのだった。
万千代は踊りだしたい気持ちを堪えつつ叫んだ。
「やります! やりますゆえ、その礼に薬が欲しいと、松下から井伊に願ってもらえませぬか?」
直虎は、松下の義父・源太郎に負い目がある。養生薬を所望していると聞けば、断れないはずだった。
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数日来、家康は1人で書類に向かっていた。万千代がまとめた一覧表は分かりやすく、元の聞き書きと並べて見ると全体像がつかめた。しかし結論が出せない。浜松と岡崎との釣り合いがどうにもよくないのだ。
「…泣いてもらうしかないか」
その夜、万千代が薬を届けに現れた。多くの薬が種別に分けられ、用い方の書きつけまで添えられている。興味津々となる家康に、万千代が言った。
万千代「念のため、医者にお調べいただければと」
家康「気を回すな。これは井伊から取り寄せた薬であろう。わしは直虎殿には信を置いておる」
退出しようとする万千代を呼び止めると、家康は聞いた。
「そなたなら、こたびの戦、岡崎をどう処遇する?」
驚きを浮かべる万千代に、家康は重ねて言った。
家康「案ずるな。そなたの言うとおりになどせぬ。しかし、そなたは誰が何をしたか、よう知っておろう」
万千代「首を取った、城を攻め落とした。そういう類いの武功で見ると、岡崎は浜松に比べると、大変に寂しい手柄となっておりましたかと」
家康「しかしながら、こたび織田があまたの援軍を寄越したのは岡崎が日頃、織田への心配りを怠らぬからじゃ」
とはいえ、浜松の本軍や国衆、武田からの離反者などに報いれば、岡崎に回す報奨も知行もなくなる。一連の戦には、今川氏真までもが加わっているのだ。
家康「そなた岡崎へ行ってもらえぬか。一つ考えておる仕置きがある。信康の手応えを探ってきてほしいのじゃ」
家康の仕置きとは、ひと月を費やして落とした諏訪原城を、なんと、今川家に与えるというものだった。
万千代「若も奥方様も今川のご縁戚。今川が一家として徳川に根を下ろすことは、必ずやお二人の力、ひいては岡崎の力となろうとの、殿のお考えにございます」
万千代は、一語一語に力を込めて申し述べた。
無論、そうした温情ばかりではない。いまだ武田の支配下にある駿河を切り取っていくには、地の利のある今川勢を手厚く遇しておかねばならぬ。そういう理屈でならば、浜松を納得させることもできよう。そうした冷静な計算も、この仕置きには含まれていた。
「お分かりいただけますでしょうか」
静かな微笑を浮かべ、信康は答えた。
「徳川の先行きのため岡崎はこらえます。しかしながら、あとあとには地味な働きをしておる岡崎の衆にもじかに報いてくださいませと、そうお伝えしてくれ」
いずれ俺は、この人に仕えることになる。直平様という共通の曽祖父を持つ、井伊の血縁者に。おおらかで頼もしく、人の上に立つために生まれてきたような、徳川信康という主に。それを思うと万千代は新たな希望で胸がはち切れるような心地になった。
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