政次は館に戻ると、直虎から聞いた話をなつ(山口紗弥加)に伝えた。
なつ「徳川が来れば、私のお役目も終わりにございますね」
なつは玄蕃(井上芳雄)が亡くなっても小野にとどまり、政次を陰ながら支え続けた。井伊と小野の橋渡し役を続けたのだ。
小野にとどまった理由がそれだけではないことは、色恋に疎い政次でもさすがに気付いていた。
政次「なつ。こたびのことが終われば、俺と一緒にならぬか」
なつは驚いて政次を見る。
政次「夫の菩提も弔わず、私の慰み者になっておると、心ない噂を立てられたこともあろう。恥ずかしい思いをさせ、いつもすまぬと思うていた…もちろん、形ばかりの夫婦ということだが、どうだ?」
なつ「事が成れば、次郎様の還俗もかなうことになりますが、よろしいのですか?」
なつが、いつしか女の顔になっていた。
なつ「ずっと、それをお望みになっておられたのでは?」
政次「うまく伝わらぬかもしれぬが…私は幼きときより、伸び伸びとふるまうおとわ様に憧れておったのだと思う」
初恋だったことを明かした。
政次「それは今も変わらぬ。殿をやっておられる殿が好きだ。身を挺してお助けしたいと思う。その気持を何かと比べることはできぬ。捨て去ることもできぬ。生涯消えることもあるまい」
直虎とは違う強さや、献身的な内助は、間違いなく政次の支えになっていた。
政次「そなたを手放したくはないのだ」
感極まったように、なつが抱きついてきた。
なつ「かようなときには、殿のことはもうなんとも思うてないと言うものですよ…」
なつの涙が、政次の肩衣を濡らした。
なつ「私がお慕い申し上げておるのは、さような義兄上様にございますゆえ…致し方ございませぬ」
政次はぎこちない手で、なつを抱き締めた。
直虎は南渓と共に、寺の井戸端で手を合わせている。
亡くなった一族と縁者たちの名を挙げた。
直虎「こたびのことがうまく運べば、ようやく今川に振り回される日々が終わります。夜明けがやってまいります。どうか、どうかご加護を…」
井伊の生ける者たちをお守りください、と一心に祈った。
永禄11(1568)年12月6日。武田軍1万は、駿河を目指して甲府を出立した。
武田軍は破竹の勢いで攻め進み、氏真は今川館に戻って立て直しをはかっていた。
氏真「北条の援軍はいつ来るのじゃ」
小倉「すでに小田原を出立したとのことにございますので、明日にはこちらに到着するかと」
氏真は焦っており、軍議は殺気立っていた。
庵原が、お館は城としては使えないため、賤機山城に籠もるべきだと進言すると、氏真は素直に聞き入れた。
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