8月6日放送の大河ドラマ「おんな城主 直虎」
第31話「虎松の首」の詳細なあらすじです。
前回(第30話)はこちら。
おんな城主 直虎 第30話のあらすじ「潰されざる者」
ネタバレ注意!
おんな城主直虎 第31話「虎松の首」あらすじ
「わしらは徳政を望まんに!」
瀬戸と祝田の百姓たちは、訴えをやめようとしない。
関口(矢島健一)の家来が、百姓に刀を振りかざした、そのとき…
「お待ちくださいませ!」
政次(高橋一生)が直虎(柴咲コウ)の襟首を掴んで、咎人かのように引きずって出てきた。
「殿!」
六左衛門(田中未央)が叫んだ。
「これは殿が仕組まれたことか」
驚く直虎に、政次は続けた。
「謀ったことかと聞いておる!」
すると、百姓たちが口々に「殿のせいじゃねえに!」「おらたちが勝手に」と直虎をかばった。
政次「ほぅ。では、この場で成敗される覚悟はできておると」
百姓「お…おう! されてやろうじゃんけえ!」
直虎「待て! 待ってくれ!」
政次「では、ここではっきり仰せられよ。百姓たちに、井伊は徳政令を受け入れ、この地を手放すと」
百姓「これはわしらが勝手にやったこと!」「そうだでえ! 受け入れることはねえにぃ!」
信じろ、おとわ
この言葉が直虎の背中を押した。
直虎「井伊は徳政令を受け入れる。受け入れるゆえ、この者たちのしたことはお許しくだされ!」
間髪を入れず、政次が関口の家来に言った。
政次「関口様に取り次ぎ願えるか。 小野但馬が目通りを願っておると」
百姓たちが直虎のもとに駆け寄ってきた。
直虎「皆、われのためにようやってくれた。嬉しいぞ」
役に立てなかったと残念がる百姓たちが、心配そうに直虎を見る。
直虎「こうなったのは、お主らのせいではない。われが至らなかったからじゃ」
百姓たちの後ろで、六左衛門が悔し泣きしている。
直虎「六左、何を泣いておる。皆を村まで帰してくれ」
六左衛門は動こうとしない。そこで近くにいるはずの直之(矢本悠馬)に怒鳴った。
直虎「之の字、皆を村に帰せ!」
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関口は、表に現れなかったくせに、社殿の中でふんぞり返っていた。
そこに政次と直虎がやって来た。
政次「夜分、ご無礼いたします。わが主が徳政令を拒んでおると聞き、連れてまいりました」
関口「百姓らが焚きつけたのか」
政次「どうもひとりでに起こったことのようですが、騒ぎの責を負い、徳政令を受け入れると先ほど言明いたしましたゆえ、ここに」
関口「なんじゃ、口ほどにもない」
関口がせせら笑う。
直虎は拳を固く握りしめながら、はい、と答え屈辱に耐えた。
関口は供の者に指示をして、用意されていた書状を読み上げた。
直虎はそれを聞きながら、かつての徳政令を巡る出来事が直虎の胸に去来していた。
関口「──よって件のごとく申し付ける。井伊殿、委細相違ござらぬか」
直虎「…相違ござらぬ」
関口「では、本日をもち、井伊はこの地の安堵を失い、井伊谷は今川の直轄となる」
関口は満足げに宣言し、直虎の目の前に書状が置かれた。
政次に促されて、名と花押を書き入れる。
拍子抜けするほどあっけなく、すべては終わった。
直虎が一人で社殿を出ると、そこには六左衛門が待っていた。
「殿…」
泣き腫らした顔で、笑ってみせている。
案ずるな、われは大丈夫だ──
そんな直虎の胸の内が、六左衛門にも伝わったのだろう。
六左衛門「…戻りましょう」
直虎「うむ…」
翌日、井伊一門の者たち全員を主殿に集め、直虎は井伊が潰れたことを伝えた。
高瀬「あの、それではこの先どうなるのですか?」
百姓の出で苦労してきた高瀬(高橋ひかる)は、さすがに切り替えが早い。
六左衛門「今川に刃向かったわけでもありませぬし、そうひどいことには…」
六左衛門は楽観的だが、祐椿尼(財前直見)がすかさず退けた。
祐椿尼「お取り潰しはお取り潰しにございましょう」
そのとき、政次が関口の手勢を引き連れて館に入ってきた。
弥吉「なにを! 無礼にも程がございますぞ」
弥吉(蔵本康文)を押しのけて、直虎に向かって言い放った。
政次「もうこの館は井伊のものではない! 急ぎ立ち退かれますよう。出ていかれねば、力に訴えねばなりませぬ」
直虎「…分かった。すぐに立ち退くゆえ、手荒なまねはよしてくれ。行くぞ、皆!」
直虎は率先して主殿を出ると、直之に指示を出した。
直虎と六左衛門は龍潭寺に向かった。
龍潭寺では、虎松(寺田心)、直久(山田瑛瑠)、亥之助(荒井雄斗)が手習いをしているところだった。
直虎「虎松、直久、われと共に行くぞ」
虎松「どこへ行くのでございますか」
直虎「あとで話す。よいから早うせよ!」
亥之助「え、あの、私は…?」
亥之助にはかわいそうだが、説明している暇はなかった。
直虎「…そなたはよい。あの、和尚様、虎松の行き先を…」
南渓「すでに傑山を向かわせておる」
直虎「かたじけのう存じます。では」
さすが南渓和尚(小林薫)は井伊一門の要だ。
昊天「井伊は取り潰されることになったので、ここにはおられぬようになったのです」
昊天(小松和重)が辛そうに口をつぐんだ。
それを見た亥之助はすぐに何かを悟ったようだ。
亥之助「もしや…伯父上がやったということですか?」
昊天が優しく諭そうとしたとき、亥之助は駆け出してしまった。
南渓「あれもそろそろ知らねばならぬ頃じゃろ」
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直虎たちは、山奥にある川名の隠し里に到着した。
目の前にある粗末な屋敷を見て、虎松と直久は戸惑っている。
直久「野遊びという趣ではございませぬが…」
直虎「…さもあらん。井伊は潰れたゆえな」
虎松「潰れた!?」
二人とも仰天して言葉が出ない。
直虎は、同行した一同を周囲に集めた。
直虎「一度しか言わぬ。そして、一度聞いたら忘れてほしい。約束してくれるか」
皆が事の重大さを感じたようだ。それぞれが顔を引き締めて頷いた。
直虎「井伊は確かに潰れた。じゃが、ひと月ふた月のうちにはよみがえらせようと思う」
虎松「よ、よみがえらせるとは?」
直虎「今年のうちには戦が始まるはず。そして、井伊には徳川が攻め込んでくる」
勘付いた直之と六左衛門が声を揃えて「あ!」と叫んだ。
直虎「そう。その徳川と井伊はすでに通じておる」
何も聞かされていなかった祐椿尼たちは衝撃を受けているようだ。
直虎「われらはその折に応じて挙兵し、関口の首を挙げ、徳川に差し出す。さすれば、井伊は瞬く間によみがえることができる」
あやめ「しかし、さように絵に描いたようにうまく事が運びましょうか」
直虎「もちろん、せねばならぬことは山のようにある。じゃが、抜かりなくやれば必ずうまくいくはずじゃ」
機をとらえたかのように、梅(梅沢昌代)が問いかけた。
梅「あの、小野はどうするのでございますか? その折には成敗を…?」
この問いは、事実を告白するのに好都合だった。
直虎「但馬は…実は、すべて知っておる」
政次はずっと井伊の敵のふりをすることで今川に対する盾になってくれているのだと打ち明けた。
六左衛門「私も実は…但馬様はお味方ではないかと思うておりました」
高瀬や祐椿尼も気付いていたらしい。直虎は拍子抜けしてしまった。
直之「それも含め、騙されておられるということはござりませぬか」
骨の髄まで小野嫌いの直之は、いまだに疑念を拭いきれないようだ。
直虎「之の字。もし、そなたの言うとおり騙されておったとしても、こちらはこちらで井伊をよみがえらせる策を成功させればよいだけじゃ。そうではないか?そうなったとき、関口の首を取るのはそなたにしかできぬ。頼むぞ」
直虎がまっすぐ目を見て言うと、直之は「はい」と力強く頷いた。
六左衛門が大きく手を打って言った。
「ほら、話が終わりましたら、忘れねば!」
六左衛門なりに気を利かせたつもりだろうが、間が悪い。
祐椿尼「六左がおると和やかになります」
六左衛門が照れ笑いをし、皆の顔に笑みが広がった。
その頃、井伊を追い込んだはずの氏真(尾上松也)も、相当追い込まれていた。
上杉の国衆が武田の調略に乗り、上杉を裏切ったのだ。
上杉と国衆との戦は長期化したため、今川と武田の戦の頼みの綱である上杉が動けなくなってしまったのだ。
氏真「小野が合力を申し出てきた?」
関口「但馬に関しては刃向かったこともないわけですし、もう一度考えてもよろしいのではないかと」
武田との戦を控えている今川には、井伊に手を割くほどの余裕はない。
氏真「では、井伊を断絶させよ」
氏真はためらわなかった。
跡継ぎである虎松の首を取れと申し付けたのだ。
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一方の直虎も、準備を怠ってはいなかった。
虎松に落ち延びるよう説得した。
直虎「今川は、そなたの首を差し出せと言うてくるかもしれぬゆえな」
そう言ってくるであろうことは想像がつく。南渓が傑山(市原隼人)を遣わして、落ち延びる手はずはすでに整っている。
虎松「嫌でございます! 虎松はここで皆と戦います!」
そう言った瞬間、虎松の頭上ギリギリを矢がかすめた。
傑山が矢を放ったのだ。
六左衛門「傑山殿! 何を!」
直虎が六左衛門を手で制した。
虎松は驚いて腰を抜かしている。そんな虎松に傑山が近付いていく。
怯えて後ずさる虎松の額に、矢の先をあてがった。虎松は恐怖のあまり失禁してしまった。
傑山「虎松様、戦場とはこういうものです」
すると、傑山はにかっと笑った。
傑山「まだ、お早い」
直虎は虎松に近づくと、じゅんじゅんと説いた。
大将がすべきことは、生き残ること。それが皆の生きる力となる。ほかの誰にもできぬことであると。
井伊を守るために、今そなたがせねばならぬことは逃げることであると。
直虎は六左衛門に、虎松の守り役をするよう頼んだ。
六左衛門「それがしなどに務まりましょうか」
なかなか引き受けない六左衛門に、「つべこべ言うな!」と直之がどなった。
直之「いざとなれば、そのでかい図体で盾となればよいのじゃ!」
六左衛門は意を決したように顔を上げた。
六左衛門「鎖帷子をお貸しくださいませ! 奥山六左衛門、歩く盾となりまする!」
直虎は、信頼できる家臣の後ろ姿を見送った。
直虎は龍潭寺に戻り、虎松の件を報告すると、今後について話し合った。
するとその時、怒号が聞こえてきた。
部屋を出ると、小野の郎党が昊天を恫喝していた。
小野の郎党「こちらへ虎松様を引き渡されよ!」
政次や関口の手の者たちが寺の中に入り、虎松を探し始めた。
政次「ここに虎松がおるであろう。おとなしく引き渡されよ」
南渓「井伊は太守様の命に従い、家を畳みました次第。謀反のかどならいざ知らず、引き渡すいわれはみじんもございませぬかと。ひとつ理由をお聞かせ願えませぬか」
政次「太守様が虎松の首をご所望じゃ」
虎松の首と引き換えに、政次に城代を任せるという好条件を突きつけたのだ。
政次「どちらへ逃した」
小野の郎党が南渓に刃を向けた。
政次「どちらじゃ!」
直虎「知らぬ!」
政次「この尼を捕らえおけ! 虎松が捕まらぬ折は、そなたでご満足いただく。連れて行け!」
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直虎は閉じ込められた部屋で座禅を組んだ。
政次は何を考えているのか、悪いほうへ悪いほうへと想像してしまう。
心頭滅却しようと一人集中した。
そこへ、見張りの者が入ってきた。
見張り「庭へ来いとの仰せじゃ」
直虎「なぜ庭へ?」
見張り「虎松の首をあらためよとの仰せじゃ」
絶句していると、有無を言わさず連れ出された。
主殿には関口、庭先には政次たちが控えていた。
庭の片隅に、南渓と昊天、領民たちも呼ばれている。
政次に向かって「どうなっておる?」と問いかけるように見やるが、無表情に見返してくるだけで、表情から何も読み取れない。
関口の家来「こちらじゃ。まず、そちからあらためられよ」
直虎はとても見ることなどできない。
万が一、虎松の首であったら…。
「あらためられよ!」
正気を保てる自信はない。覚悟して首桶を開けた。
中には、子どもの首が入っていた。
関口の家来「何故、かような厚い化粧を施しておる! これでは分からぬではないか!」
政次「虎松君は疱瘡を患っておいででしたので、せめてかようにするが礼儀かと…」
恐ろしい流行り病にかかっていたと聞いた関口たちは、思わず身を引いた。
政次「いかがいたしましょう。拭き取れと仰せなら拭き取りますが」
関口「もうよい! 分かった!」
直虎の目が、涙で潤んだ。
政次「では、これを駿府に」
関口「さようなものを持ち込んで、駿府に疱瘡が出てはいかがする!」
そのとき、震える読経の声が辺りに響いた。
首桶を前に、直虎が涙を流しながら経を唱えている。
やがて、経を唱えつつ、死に化粧を施された首を抱いた。
関口の家来「…ようも、あのようなことができるな」
南渓「我が子ならば、抱かずにはおられますまい」
そう言うと、南渓も経を唱え始めた。
昊天も続いた。
歌うような経を聞きながら、政次はゆっくりとまぶたを閉じた。
井伊が潰れ、政次が城に入ったと聞いた龍雲丸(柳楽優弥)が、事情を聞きに南渓を訪ねた。
龍雲丸「じゃあ、皆、無事は無事なのか」
南渓「うむ、一人を除いてはの」
龍雲丸「一人?」
南渓「どこの誰とも分からぬ子が、一人のうなった」
龍雲丸は何のことかわからない。
南渓「虎松の身代わりに、但馬が殺めたのじゃ…」
龍雲丸が寺の井戸端を向かうと、直虎が土を掘っていた。
龍雲丸「尼小僧様」
直虎「悪いが、取り込み中での」
そっけなく言うと、また作業に戻った。
龍雲丸「手伝いましょう」
直虎「よい…頼むから向こうへ行ってくれ」
龍雲丸「その子の親は、その子を売ったんだ。もう長くもねぇって。」
直虎の手が止まった。
龍雲丸「あの人はその子を斬ったこと、恐らくこれっぽっちも悔いちゃいませんよ」
直虎「頭に何が分かる!」
龍雲丸「あの人は、守りたいから守ったんでさぁ」
たとえ、自分一人が地獄に行くことになろうとも。
龍雲丸が立ち去ると、直虎は首桶を埋めた。
井伊のために命を捧げてくれた者を、せめて井伊ゆかりの地に葬ってやりたかった。
直虎は土饅頭に手を合わせ、決意を新たにした。
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