直虎たちは、山奥にある川名の隠し里に到着した。
目の前にある粗末な屋敷を見て、虎松と直久は戸惑っている。
直久「野遊びという趣ではございませぬが…」
直虎「…さもあらん。井伊は潰れたゆえな」
虎松「潰れた!?」
二人とも仰天して言葉が出ない。
直虎は、同行した一同を周囲に集めた。
直虎「一度しか言わぬ。そして、一度聞いたら忘れてほしい。約束してくれるか」
皆が事の重大さを感じたようだ。それぞれが顔を引き締めて頷いた。
直虎「井伊は確かに潰れた。じゃが、ひと月ふた月のうちにはよみがえらせようと思う」
虎松「よ、よみがえらせるとは?」
直虎「今年のうちには戦が始まるはず。そして、井伊には徳川が攻め込んでくる」
勘付いた直之と六左衛門が声を揃えて「あ!」と叫んだ。
直虎「そう。その徳川と井伊はすでに通じておる」
何も聞かされていなかった祐椿尼たちは衝撃を受けているようだ。
直虎「われらはその折に応じて挙兵し、関口の首を挙げ、徳川に差し出す。さすれば、井伊は瞬く間によみがえることができる」
あやめ「しかし、さように絵に描いたようにうまく事が運びましょうか」
直虎「もちろん、せねばならぬことは山のようにある。じゃが、抜かりなくやれば必ずうまくいくはずじゃ」
機をとらえたかのように、梅(梅沢昌代)が問いかけた。
梅「あの、小野はどうするのでございますか? その折には成敗を…?」
この問いは、事実を告白するのに好都合だった。
直虎「但馬は…実は、すべて知っておる」
政次はずっと井伊の敵のふりをすることで今川に対する盾になってくれているのだと打ち明けた。
六左衛門「私も実は…但馬様はお味方ではないかと思うておりました」
高瀬や祐椿尼も気付いていたらしい。直虎は拍子抜けしてしまった。
直之「それも含め、騙されておられるということはござりませぬか」
骨の髄まで小野嫌いの直之は、いまだに疑念を拭いきれないようだ。
直虎「之の字。もし、そなたの言うとおり騙されておったとしても、こちらはこちらで井伊をよみがえらせる策を成功させればよいだけじゃ。そうではないか?そうなったとき、関口の首を取るのはそなたにしかできぬ。頼むぞ」
直虎がまっすぐ目を見て言うと、直之は「はい」と力強く頷いた。
六左衛門が大きく手を打って言った。
「ほら、話が終わりましたら、忘れねば!」
六左衛門なりに気を利かせたつもりだろうが、間が悪い。
祐椿尼「六左がおると和やかになります」
六左衛門が照れ笑いをし、皆の顔に笑みが広がった。
その頃、井伊を追い込んだはずの氏真(尾上松也)も、相当追い込まれていた。
上杉の国衆が武田の調略に乗り、上杉を裏切ったのだ。
上杉と国衆との戦は長期化したため、今川と武田の戦の頼みの綱である上杉が動けなくなってしまったのだ。
氏真「小野が合力を申し出てきた?」
関口「但馬に関しては刃向かったこともないわけですし、もう一度考えてもよろしいのではないかと」
武田との戦を控えている今川には、井伊に手を割くほどの余裕はない。
氏真「では、井伊を断絶させよ」
氏真はためらわなかった。
跡継ぎである虎松の首を取れと申し付けたのだ。
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