龍雲丸に誘い出され、方久が龍雲党の根城にやって来た。
政次がじっと見やると、方久は焦ったようなひるんだ表情を見せた。
政次「知らぬであろうが、私はお主を見張るように太守様から言われておってな」
方久「えっ!」
政次「これは、どうしたものかのぅ」
政次は冷たい声で問いかけた。
政次「井伊を取り潰す話からは、但馬を外すと言われたか」
方久は驚いて目を剥いた。
政次の考えたとおり、井伊家を追い込み、滅する話が陰で進んでいるに違いなかった。
政次「お主には私を外すと言いつつ、私にはお主を外すと言い、天秤にかけておるのであろう。今川とはそういう家じゃ」
方久は、何かを隠しているかのように背中に手を回している。その背後から龍雲丸が手を押さえた。
方久「やめ、頭! やめ! ああああぁ」
袴の下から書状が出てきた。
龍雲丸が政次に渡し、政次は書状を開いた。
徳政令後も瀬戸方久の土地は安堵す
なるほど、そういうことか。
徳政令で百姓たちの借金が帳消しになれば、方久は井伊家に貸している金を取り立てる。返す金などない直虎は、土地を差し出すしかなくなるだろう。
政次「そうなれば井伊は潰れたも同じ。今川は一兵も動かさず、井伊を直轄にできるという筋書きか」
龍雲丸「尼小僧に取り立ててもらったんじゃねえのかよ」
方久「気賀を取り上げると言われれば、誰だってそうするでしょう!」
開き直った方久が続けた。
「それに悪うございますがね。徳政がどうあれ、井伊は取り潰されますよ。今川の目当ては、井伊を直轄にすることですから!」
その後の今川の対応は早かった。
今川家の家臣・関口(矢島健一)が突然訪れ、想像もしていなかったことを言い出した。
関口「太守様よりのお下知を達しに参った」
関口は書状を広げて読み上げた。
かねて井伊領内の百姓らの願い出たる徳政令、井伊に速やかに行うことを命ずるものなり
戸惑い声も出ない直虎に向かって、関口は続けた。
関口「全く進んでおらぬ井伊からの借金を取り立てたいと、方久が申し立ててきての」
直虎「方久はそれをせぬことと引き換えに、井伊の家臣となったのです。さようなことを言いだすわけがございませぬ!」
関口「しかし、わしはそう聞いておるゆえな」
直ちに徳政を行うという誓詞を明日までにしたためよ、そう言い残すと関口は立ち去った。
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