商人「井伊様が材木を都合されるかどうか決めかねておられるというお話でしたが」
直虎「だまして悪いが、さような話ではない」
大沢側が武力で騒ぎを鎮めようとしていることを明かした。
直虎「さすれば、刃向かう者たちの処罰や追放も行われよう。そろそろ矛を収めることを考えたほうが得策だと、われは思うが」
大沢派と反対派が喧嘩を始めたが、直虎はそれが収まるまで待つと、反対派の1人に問いかけた。
直虎「武家が入ることの何がさように嫌なのじゃ?」
商人「そもそもわれらは銭を納め、町の仕切りを買い取っておった。これではなんのために銭を納めてきたのか分からぬ!」
商人「お代官が入れば、船荷や人も厳しくあらためられましょう。商いがやりにくうて仕方がございませぬ」
直虎「ほぉ。では、城を築くことだけはのんでもよいのではないか?」
武家の目が入り、商いが不自由になることに抵抗があるのだろう。築城と引き換えに、商いには口出ししないよう大沢に願い出ればうまくいくのではないか。直虎はそう考えた。
直虎「大沢殿も、気賀が儲からぬようになるのはありがたいことではなかろう。話し合う余地は多分にあると思うぞ」
双方とも納得した表情になった。
中村屋「では、城は築くことにし、あとは談判ということでよいかの」
龍雲丸「よくねえでしょう。城なんかまっぴら御免だ」
突然、龍雲丸が切り出した。
龍雲丸「そっちがそういう了見なら、暴れやしませんよ。こんなとこ出ていくだけでさぁ」
そう言い残して出て行く龍雲丸の後を直虎は追いかけた。
直虎「待て、頭。もう少し話をせぬか。そなたは出て行きたくはないはずじゃ!」
龍雲丸「んなこたねぇですよ」
直虎「では何ゆえ井伊までどなり込んできた。危ない目を承知で火付けまでした」
龍雲丸は黙り込んだ。
直虎は説得しようとさまざまな言葉をかけた。
龍雲丸「俺の親は、城を守るって死んだんでさぁ。もう負けは見えてんのに…」
龍雲丸は自身の過去を初めて口にした。
龍雲丸「城ってなぁ、人を守るためにあるもんじゃねえですか。それを守るために死ぬなんて、どう考えたっておかしい。そんなもんは要らねえんだ」
直虎「田畑や野で狩られる者もおる。城に逃げ込み命拾いした者もあろう。城さえなければ助かるという話ではあるまい」
言い返せない龍雲丸に、直虎は続けた。
直虎「城を的に敵が攻めてくるか否かも、不幸にも的となったとき、城を守りきれるか否かも、城主の采配しだい。城があるのが悪いとは言い切れまい」
龍雲丸「じゃあ、あんたがここの城主をやんのか?やったところで、能書きのとおりできるのか?」
直虎「それは…」
龍雲丸「できもしねえこと、言ってんじゃねえわ」
そう言うと、龍雲丸は去っていった。
居館に戻った直虎は、龍雲丸とのやりとりを六左衛門に聞かせた。
六左衛門「では龍雲党は、気賀からいなくなるのでございますか?うまくやっておるようでしたのに」
直虎「これ以上、関わりようもないわ」
方久「もっと関わるという手はございませぬかね」
方久が割って入り、それを聞いた直虎は困惑している。
方久「このもめごとに関わることで、例えば、気賀に大沢様の代わりに井伊が入るというように持っていくことはできませぬかね」
この男は一体何を考えているのだ…
方久「井伊にとっても、材木や綿、米の商いもやりやすうなりますし、港を押さえられれば新たな儲けも望めましょうし」
直虎「気賀が望んだところで、駿府がさようなことを認めるはずがあるまい」
方久「もし、駿府が認めるのならば、殿は気賀の城主をお受けになりますか?」
方久は真顔で訴えていた。
直虎は言葉を失ったまま、方久の顔を見つめていた。
[次回]
第27話のあらすじとネタバレ!「気賀を我が手に」
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