暗殺
昌幸と正武の囲碁が佳境を迎えた。
「隙をついてわしを殺し、徳川からこの城をもらうつもりであったか」
昌幸が言い、次の一手を打った。刺客は始末し、隠し部屋に手勢も控えている。
「お主の負けじゃ。わしの家来になれ。さすれば、許す」
昌幸と正武は幼なじみで、似たような人生を歩んできた。正武の前にはいつも昌幸がいたが、正武は昌幸に劣っていると思ったことはない。
「わしの勝ちじゃ」
正武は、最後の一手を打って立ち上がった。
「……お主の家来にはならぬ」
正武が腰をかがめ、隠し持っていた小刀をつかんだ刹那、昌相が飛び出してきてその背中を刺した。深手を負い立ち上がった正武を、信幸が正面から斬りつけ、内記が背後からばっさりと斬った。
きりは突然、目の前で起きた刃傷沙汰に茫然とし、我に返って悲鳴を上げながら駆けだした。
大広間では、作兵衛が祝い酒に酔いつぶれている。そこに、きりが蒼白な顔で来て、信繁を引っ張っていく。ただならない様子に、梅もあとを追った。三人で昌幸の居室に駆けつけると、息絶えた正武の横で、昌幸が碁盤を凝視している。異様な光景だ。昌相はあたかも信繁たちに宣言するように、昌幸に報告した。
「室賀正武、徳川家康にそそのかされ、殿を暗殺せんと参ったところ、返り討ちにいたしました」
昌幸が「ご苦労」とひと言ねぎらった。
信繁がつぶやいた。
「……読めました。それで祝言を」
きりは、泣きながら信繁を責めた。
「あなたたち、いいのそれで!?お梅ちゃんが……」
昌幸が顔を上げた。
「わしが命じたのだ。真田が大名になるためには、室賀がいては困るのだ!……すべては真田のためじゃ!」
夜が更けたころ、信繁と信幸は、本丸の櫓に並んで月を見上げた。
「父上は、また見事に成し遂げられましたね」
信繁は祝言を利用された怒りより、昌幸の策を見抜けなかった未熟さが悔しい。それと同時に、そんな感じ方をする自分が好きになれない。
「あのとき、お梅のために、怒り、泣いたのは、私ではなかった」
「悩め、源次郎。そうやって前にすすんでいくしかないのだ、今のわれらは」
信幸が、優しく信繁の肩を抱いた。
(続き:第12話)
真田丸の関連記事はこちらから。
大河ドラマ『真田丸』 関連記事まとめ
コメント