傑山が急いだ様子でやってきた。
傑山「和尚様、次郎。近藤の者が…」
3人の間に緊張が走った。盗賊団一味の頭がここにいることが、何故ばれたのだろうか。
直虎がうろたえていると、「どれ、わしが行こう」と南渓が出ていった。
近藤という男の執念深さはよくわかっている。面目を潰されたら、やり返さずにはおかないだろう。
南渓が戻ってきた。
南渓「大事ない。館の病人を見てほしいだけじゃと」
直虎「かようなときにだけ。都合の良いことじゃ」
病人のところへは昊天が行くことになった。
気はまったく進まないが、直虎も昊天について井伊の館に行くことになった。
驚くことに、重症を負ったというのは近藤本人だというのだ。
横になっている近藤の傍らに昊天が腰を下ろし、手を取った。
昊天「お脈を拝見。次郎、傷のほうを確かめてください」
政次を磔にした張本人を前にして、直虎は固まってしまった。政次を殺した者をどうしてわざわざ助けなければならないのか…。
葛藤しながらも布団を剥がすと、近藤は脚に直視できぬほどの大怪我を負っていた。
堀江城の戦いで深手を負い、近藤方の医者では手に負えないらしい。
直虎「湯を持ってきてください。それと、あるだけの布を」
憎い相手ではあるが、眼前で苦しんでいる様はあわれだ。この男もまた戦乱の犠牲者かと思うと、否応なく憐憫の情が湧いてくる。
やがて、熱に浮かされていた近藤の目が開いた。
直虎を見たとたん、その目が凍りついた。
近藤「何故、こ、この者たちが…わしを殺す気か!?」
治療道具の刃物を手にしているのを見て、勘違いしたようだ。
直虎は思わず笑ってしまい、刃物を振りかざした。
直虎「…殺すつもりならば、このまま捨て置きます」
優しく言うと、ご無礼つかまつります、と近藤の脚をきつく縛っていた布を切った。
寺に戻って近藤の話を龍雲丸に聞かせた。
龍雲丸はおもしろがって笑った。
直虎「しかし、勝つというのは、なんなのであろうの。勝ったところで、また戦に駆り出され、声変わりもせぬ後継ぎが戦に出るという。深手を負い、もう馬にも乗れぬようになる者もある」
龍雲丸は黙って聞いている。
「まことに勝ちなのであろうかの、それは…」
直虎には、この群雄割拠の世がむなしく思えてしかたがないのだ。
その頃、家康は極秘裏に氏真と面会していた。
氏真「何故、余を助ける?」
家康から和睦を申し入れてきたのだ。
家康「わがほうもすり減ってきておりますし、そちらも同じことかと」
氏真「しかし、世の首を取らねば、あの人でなしは怒り狂おう」
家康「武田は今、余裕をなくしておりますし。北条様の元に身を寄せられれば…」
氏真「答えになっておらぬ気がするがの」
家康「…少し、戦に嫌気も差しまして」
家康の本音だった。
しかし、氏真は詭弁と受け取ったようだ。
氏真「は。そのほうがか?」
家康「私はなにも好んで戦をしておるわけではございませぬ。せねばならぬように追い込まれるだけで」
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