先を急ぐ信幸と佐助の前に、突如、覆面の集団が現れて襲いかかってきた。覆面集団の背後にいるのは、深編笠をかぶった正武と昌相だ。
信幸は必死に懐の書状を守って応戦し、近寄ってきた佐助に「文を!」と手渡した。佐助は敏捷に覆面集団をすり抜け、追いかけてきた敵をかわそうととんぼ返りで宙を舞った瞬間、懐にしまった書状が地面に落ちた。慌てて拾おうとした佐助は、書状を覆面集団に奪われ、斬りつけられて血まみれで倒れ伏した。
室賀の屋敷に戻った正武と昌相は、昌幸が上杉に宛てた密書に目を通した。真田と上杉がつながっていることを示す動かぬ証拠だ。
「この密書、使えるぞ。これを手土産に、わしは信長に会ってくる。お主のことも推挙しておく」
正武が昌相を見てほくそ笑んだ。
信幸は真田屋敷に取って返し、昌幸にわびた。
「出浦昌相の顔を見ました。室賀正武も確か。襲ったのは、やつらの手の者です!すぐに奪い返してまいります」
信幸が自害をもいとわぬ決意で顔を上げたとき、廊下から声がかかり、昌相が部屋に入ってきた。
「見事に引っ掛かった。あの密書を持って、信長に会いに行くそうだ」
仰天している信幸に、昌幸が種明かしをした。昌幸の書状は、正武が奪うように仕向けたわなで、ご注進よろしく信長のもとに届けると踏んでいた。そもそも上杉からの密書など、はなからない。
「あれを読んで、信長はどう思う。この真田という男、方々から声をかけられている。うまみのある人物に違いない、わしも味わってみたいものじゃ。信長ならそう考える」
信幸は芝居が下手なため、事前に教えず、まずは味方から欺いたという顛末だ。
信幸が肩を落としていると、佐助がぴんぴんした姿で現れた。昌幸から見事な働きぶりを褒められ、佐助は風のように消えた。
「真田殿、お主が信長に賭けたように、わしは真田昌幸に賭けたのだ。信濃の行く末はお主にかかっておる。頼んだぞ」
昌幸と昌相が酒を酌み交わすのを、信幸は1人取り残された気分で眺めていた。
信幸が眠れぬ夜を過ごしているとき、信繁が力添えを求めにやって来た。しぶしぶ作兵衛の家に連れていかれると、松とその横でうなだれている茂誠がいる。信幸は非道なほどの駆け引きを目にしたばかりだ。茂誠と昌幸の間を取り持つことなどできない。
「腹を召されよ!」
信幸は刀を抜いて茂誠に自刃を迫った。だが、信繁がとりなし、松は身を挺して茂誠をかばった。信幸自身疲労困憊していて、たとえ茂誠が逃げたとしてもあずかり知らぬと、見て見ぬふりを決めた。
信長
その翌日、昌幸のもとに、信長から「参上せよ」との書状が届いた。
「源次郎、ついてこい。織田信長という男、真田を託すに足るかどうか、その目でしかと確かめてみよ」
信繁は気持ちが沸き立った。信幸も行きたいが、昌幸は「ならぬ」と一言のもとに退けた。
「生きて帰れぬかもしれんのだ。お前を残すのは、もしものため。わしらに何かあったときは、お前が、真田を率いていくのだ。あとは託したぞ」
昌幸に全幅の信頼を置かれ、信幸は嫡男としての自信を取り戻していく。
(続き:第4話)
真田丸の関連記事はこちらから。
大河ドラマ『真田丸』 関連記事まとめ
コメント