3月13日放送の真田丸 第10話『妙手』の詳細なあらすじです。
ネタバレ注意!
あらすじ
家康はすでに浜松城に帰っている。信尹は浜松城を訪ね、重臣の本多正信と対面した。
「三河守様が、約定を必ずお守りくださるお方と信じましたゆえ、真田がお味方いたしたこと、くれぐれもお忘れなきよう」
信尹はくぎを刺し、慇懃に平伏した。
家康は真田の力を必要としていたときは、信尹と直接顔を合わせた。だが今は、亡き信長の葬儀を取りしきり、有力な後継者として台頭してきた秀吉の動向が気がかりで、用済みとなった真田どころではない。
「とはいえ、真田にへそを曲げられ、上杉につかれでもしたら、えらいことになります」
正信は信尹との対面を終え、切れ者ぞろいの真田を軽んじてはならないと忠告した。
浜松へ
家康から会いたいと呼ばれ、昌幸は急病という口実をもうけ、浜松城に信幸と信繁を遣わした。家康はあからさまに不機嫌な顔をすると、なげやりな口調で北条戦での真田勢の活躍に感謝した。
信幸が丁重に頭を下げ、おもむろに顔を上げた。
「……虚空蔵山城をご存じでございますか」
信幸が家康に尋ねると、信繁がさっと信濃の地図を広げた。虚空蔵山城は、上杉と徳川の領土の境目にあり、小県の北方に接している。
「上杉は、この城を足がかりに、信濃の支配を狙っております。されば、わが小県に、それに備えた新しい城を造っていただきとうござる。いざというときに、徳川方の軍勢が入れるだけの城を、この海士淵に。われら真田が謹んでお守りつかまつる」
信幸が地図で海士淵を指した。
「真田のために、わしに城を造れと申すか」
家康が目をむき、傍らにいた本多忠勝が憤慨して立ち上がった。
ところが信幸は、忠勝の鼻息の荒さなどどこ吹く風で、いずれ脅威となる上杉を牽制し、小県の守りを固める、徳川のための城だと主張した。
正信が膝を進め、地図で虚空蔵山城と海士淵の位置を確かめると、信幸の説に一理あると認めた。すると、家康はあっさりと普請を了承した。
「分かった。造ってしんぜよう」
今回の家康の呼び出しを、昌幸は駆け引きの好機とし、信幸を差し向けて城を築かせようとたくらんだ。しかし、家康もこの機を捉えて腹案を練り、一つの条件を出してきた。
「沼田をもらい受けたい」
真田を味方に取り込む際、家康は沼田城と岩櫃城を含む沼田領の安堵を約束した。にもかかわらず、家康と氏政が和睦の約定を交わした際、上野一国を北条に渡してしまった。沼田領を失えば、真田の領地が五分の一に減ってしまう一大事だ。
「お断り申し上げる。沼田を北条に渡すなど理不尽至極!」
信幸が断固として抗議すると、忠勝が怒りのあまり殺気立ち、一触即発の緊迫した空気となった。
結局、立ち会っていた信尹が、昌幸と相談して決めるという形でこの問題を預かった。
別室に引き揚げた信幸は、気張っていた分だけ疲労困憊している。それにしても、なぜ昌幸は海士淵に城を築こうとしているのか。
「本当の狙いは、恐らく徳川」
信尹の推測に、信繁が同意した。
「海士淵に城を建てれば、北の上杉だけでなく、南からの敵、つまり徳川も防ぐことができます」
真田と徳川は、いずれ対立する日が来る。
「では、徳川と戦うための城を、徳川に造らせるというのか」
信幸には到底まねのできない、昌幸ならではの型破りな発想だった。
夜、家康が酒宴を開いた。
「実は、今宵は、取って置きの趣向がござってな」
家康から真田へ、格別な土産があると言う。正信が隣室とのふすまを開くと、とりが座っている。
信繁が仰天し、信幸も信尹も驚いてとりに駆け寄った。木曽義昌の人質となったとりは、義昌が徳川に臣従した際、今度は徳川の人質となって浜松城に移されていた。とりは血色もよく、忌憚のない物言いも相変わらずだ。
「信幸殿、今や徳川と真田は固い絆で結ばれておる。これを機に、人質をお返ししたい」
家康は温厚そうな顔をし、小声で付け加えた。
「沼田の件、一つよしなに」
沼田死守
沼田城は利根川の近くに位置し、上野支配の要衝だ。真田も譲れないが、関東の統一をもくろむ北条はどうしても欲しい。家康は海士淵に城を造る約束に加え、人質のとりを先に真田の郷に返した。こうしたさじ加減が、徳川の折衝術だ。
「ならば、沼田はひとまず忘れるとしよう」
昌幸は海士淵の城を優先したが、収まらないのが上野の真田領支配を任されている矢沢頼綱だ。
「北条になど死んでも渡すものか」
頼綱は城を死守すると闘志を燃やし、信幸の説得に応じようとしなかった。
昌幸たちが頼綱の説得に手間取っているうちに、家康は沼田の対処を北条に任せてしまった。北条は武力での奪取も辞さないと勇み立ち、沼田城に城の明け渡しを求める使者を送った。ところが、頼綱がいきなり使者を斬り殺してしまった。激高する氏直をなだめ、氏政は不敵に言い放った。
「これで沼田攻めの口実ができた」
ほどなく、北条の激しい攻撃が開始された。頼綱は城の前に打って出て、齢七十に近いとは思えない気迫で戦い、北条勢を城に寄せつけない。
小県では、海士淵に面した上田平で、新しい城の建設が始まっていた。のちの上田城だ。昌幸は内記とともに建築現場に足を運び、作業の進行を見ながら沼田城をどうするか話し合った。
「援軍は送らぬ。ここは叔父上に踏ん張ってもらうしかなかろう」
徳川と北条が和睦した以上、徳川の傘下にいる真田がおおっぴらに北条と戦うわけにはいかない。その一方で、信繁の側近で頼綱の息子の三十郎が、沼田に加勢に行きたいという思いに、昌幸は理解を示した。
「すぐに沼田へ向かえ。そして戦が長引くようなら、叔父上を連れて帰れ」
昌幸としては、この大事な時期に頼綱に死なれては困るのだが、頑固一徹の頼綱は容易には沼田城を諦めないだろう。
「沼田の戦を終わらせるためには、上杉の力を借りるほかない」
もっとも、謀略をめぐらしたあげく裏切った真田に、上杉がおいそれと力を貸してくれるはずがない。
「知恵を働かせよ、源次郎。お前に任せた」
「……はい!」
信繁は、この夜、梅に会いに行った。
「父上に、私が策を練るようにと命じられた」
「ぜひ、またお手柄を。梅はお祈りしております」
梅のけなげさに、信繁は任務へのさらなる意気込みを覚えた。しかも、梅は一人ではないと言う。
「やや子が」
梅が、恥ずかしげに微笑んだ。
春日山城へ
上杉は新発田の反乱をいまだ鎮圧できず、さらには隣国・越中の佐々成政との戦が今にも勃発しようとしている。そんな緊迫した状況の中、信繁は越後の春日山城に景勝を訪ねた。
「実は、私は信尹の息子ではありませぬ。父は真田安房守。源次郎信繁と申します」
上杉においては、真田と名乗っただけで命がいくつあっても足りない。現に直江兼続など、今にも刀に手をかけようとしている。信繁は危険を承知のうえで現れ、敵将の前で背筋を伸ばしている。
景勝は、信繁の清新さに引かれた。
「言いたいことを申してみよ」
「今、徳川が上田平に城を築いております。完成した暁には、真田が入りまする」
信繁は、築城の経緯を包み隠さず話した。表向きは上杉の信濃攻めに備えた城だが、本当は徳川に備えた城を家康に造らせている。
「真田が徳川の家臣になることはありませぬ」
徳川は理不尽にも、真田が正々堂々と戦で勝ち取った領地を、北条と分け合った。
「真田には、真田の意地がございます。武士としての誇りを守りたいと存じます」
むろん、上杉に加勢を願うほど厚顔ではない。
「芝居をしていただきたいのです。虚空蔵山城にて、戦芝居を」
真田が虚空蔵山城を攻め、上杉が見事に撃退する。次に、勢いに乗った上杉が、上野の北条を攻めるという噂を流す。それを耳にした北条は、沼田城ばかりに関わっていられずに撤退する。この結末を導くための、戦芝居だ。
「おもしろい。殺されるかもしれぬのに、わしのところへやって来た、お主の勇気に免じて、この話、乗ることにした」
信繁は深々と頭を下げると、春日山城の廊下を胸を張って歩いて行った。
兼続はまだ真田への警戒を解いていないが、景勝は真田信繁という武将に興味をかきたてられた。
「今、真田を敵に回すのは、得策ではない。ならば、試してみようではないか。あの男に真があるか否か」
景勝は、信繁に賭けてみたくなった。
芝居
それからまもなく、虚空蔵山城で真田と上杉の戦芝居が演じられた。真田が攻め、上杉が圧勝したという情報は、瞬く間に各地に広まった。沼田城近くの北条の陣では、北条の兵に変装した佐助が、上杉勢が勢いを増して上野に向かってくるという噂をまことしやかに話している。
小田原城の氏政に知らせが届いたときには、信憑性が高まっていた。
「上杉にまだそんな余力があるとはのう。いったん兵を引いて立て直しじゃ!」
氏政が苦々しく命じた。
北条が沼田の件で徳川に力添えを求めたが、家康はこの一件にあきあきしていて、考えるのもおっくうだ。
側室の阿茶局が、正信に困った顔を向けた。
「殿は西のことで頭がいっぱいなのです」
秀吉が急速に力を付け、旧織田家臣の誰が敵で誰が味方か、家康は勢力地図と首っ引きだ。
正信が、事も無げに言う。
「しかしながら、西に集中するためにも、東の憂いは取り除いておいたほうがよろしいかと。真田安房守、そろそろ死んでいただきましょう」
信繁は今回の作戦を、昌幸からも信幸からも手放しで褒められた。この喜びを梅と分かち合いたくて、夜、作兵衛の家に駆け込んだ。一兵も死なせずに敵を追いやる策は、梅やおなかの赤子の命を守るためにもと、知恵を絞った成果だ。
「そなたは、なくてはならぬ人だ。私の妻になってくれないか」
「……そのお言葉、お待ち申しておりました!」
信繁と梅は、ひしと抱き合った。
その同じ夜。室賀正武は浜松城に呼ばれていた。
(続き:第11話)
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