信長の供応は華やかで、念の入ったものだった。その最中、羽柴秀吉が放った密使が安土城に到着した。
齟齬と混乱はそこから始まった。宴席に家臣が現れ、恐れながら、と信長に告げた。
「備中高松城の清水宗治が思ったよりしぶとく、至急に援軍をお願いしたいとのことにござります」
一瞬の躊躇もなく、信長は光秀に視線を向けた。
信長「急ぎ中国へ向け、兵を調えよ」
光秀「しかし、それがしはご供応役にございますし」
信長「行けと言うのが分からんのか、この金柑頭!」
退出する光秀を見送り、家康たちは顔を見合わせた。謀反を起こすはずの張本人が消えた。これから何がどうなるのか、誰にも分からなくなっていた。
驚きに目を丸くする龍雲丸は、少しも変わっていなかった。妙に照れくさくなり、直虎は小声で言った。
「久しいの、頭」
「会いに来てくれたのか、とわ!」
挨拶もそこそこに直虎は南蛮の船が必要となった事情を説明した。
龍雲丸「尼小僧様はまたなんだって、こんな物騒な話に首突っ込んで」
直虎「われは今、戦をなくす戦をしておるのじゃ」
虎松が万千代と名を改め、今は家康のそば近くに仕えていることを直虎は話した。
直虎「ひとつ徳川のお家で、戦のない世を目指していただこうかと思うてな」
「相変わらず…いかれておるのぅ」
龍雲丸は、あきれたように笑った。
数日後の5月29日。
安土城での6日間に及んだ供応を終えた徳川一行が、堺にようやく姿を見せた。
あとは謀反の報とともに、ここから船で逃げるのみ。そう思った直虎だったが、光秀が毛利攻めの支度のために領地に帰ったことを万千代から聞かされ、にわかに落ち着かなくなった。
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