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おんな城主直虎 第35話のあらすじとネタバレ!「蘇えりし者たち」

9月3日放送の大河ドラマ「おんな城主 直虎
第35話「蘇えりし者たち」の詳細なあらすじです。

前回(第34話)はこちら。
おんな城主 直虎 第34話のあらすじ「隠し港の龍雲丸」

ネタバレ注意!

おんな城主直虎 第35話「蘇えりし者たち」あらすじ

気賀が襲われた話を聞いた直虎は、南渓や傑山、昊天らとともに気賀に向かった。
方久と辰も気賀へと舞い戻った。

堀川城はひどい有様だった。腕や足が転がり、城兵や民百姓たちの骸の山ができていた。

直虎「われが、気賀に城など…」

渋っていた龍雲丸を説得し、城を建てるよう勧めたのは直虎自身だった。
そんな直虎の言葉を遮るように、南渓が大声を出した。

南渓「生きておる者はおらぬかー!!」

南渓は城の奥に進んでいく。傑山もそれに続いた。
それでも動けない直虎の背中を昊天がぽんと叩いた。

昊天「前後際断です、次郎。生きておる者を探しましょう」

前後際断(ぜんごさいだん)

過去にとらわれず、未来を憂うことなく、今を大事にしなさい、という意味の禅語

直虎がようやく歩き出したところ、何か硬い物を踏みつけた感触があった。
何かと思えば水筒である。拾い上げてみると、以前に自分が使っていたものだ。

ハッとして周囲を見回す。少し離れたところに、見覚えのある長髪の男が倒れている。

直虎「…頭か!? 頭!」

駆け寄って体を起こすと、間違いなく龍雲丸だ。
体中傷だらけで、脇腹をざっくりと斬りつけられている。

直虎「頭! しっかりしろ!」

反応せず、ぐったりと直虎に倒れ掛かってくる。
耳を近付けると、かすかに呼吸の音が聞こえた。

直虎「息が、ある…」

龍雲丸をギュッと抱きしめ、声を振り絞った。

直虎「和尚様! おりました! 生きておる者がおりました!」

傑山たちの手で、龍雲丸は龍潭寺に運び込まれた。
傷の処置は終わったが、体温が一向に戻らない。火鉢を近くに置き、体に温石を当てて温めるが、このままでは生命が危ない。

昊天「次郎、血止めの薬を飲ませてみましょう」

以前に西国で薬を学んだことがある昊天は、医者並みの治療を施すことができる。

直虎が吸い飲みで飲ませようとしたが、口からダラダラとこぼれてしまった。

昊天「飲み下せませぬか…」

直虎は躊躇することなく、薬湯を口に含んだ。口移しで飲ませてみると、龍雲丸の喉がコクリと上下した。

直虎「…飲みました」

直虎は肌着一枚になり、体をピタリとくっつけ温める。
自分の体温を与えるようにしながら、龍雲丸を見守った。


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堀川城での徳川の苛烈な手段は、遠江の国衆に知れ渡り、ただならぬ恐怖を与えた。そして、浜名湖畔の制圧につながっていった。

忠次「堀江城の大沢基胤が降伏してまいりましたが、本領の堀江は安堵、気賀は近藤に任すという形でよろしゅうございますか?」

家康は怒りを込めて忠次を睨みつける。

忠次「…気賀では手向かいもございました。故に打ち懲らしたまでにございます」
家康「降伏してきたただの民まで、射殺したそうではないか」
忠次「切り取った地を治めるには、寛容だけでは足りませぬ。逆らえば恐ろしいことになると示すことも肝要かと」
忠勝「まぁ、これで後顧の憂いなく掛川を攻められるようになったのも事実でございましょう、殿」

家康は忠次ほど非情になれない。忠勝が言うことも否定はできないが、彼らほど前向きになれないのだ。
忠次と忠勝が話し込んでいるところで、二人に気付かれないように、そっと数正に言った。

家康「常慶を呼べ。誰にも気付かれぬようにな」

ようやく体温が戻った龍雲丸だったが、今度は高熱が襲いかかった。
直虎は寝不足と疲れでふらついていた。

昊天「寝ておらぬでしょう、次郎。少し休みなさい」
直虎「大事ございませぬ」
昊天「次郎ができることは私にもできます。休みなさい」

直虎は素直に従った。自分まで倒れて迷惑を掛けている場合ではない。
部屋を出たところで、「もし」と声を掛けられた。
年の頃12、3あたりの武家の少年が立っていた。

直虎「そなたは?」
少年「鈴木重時が一子、重好と申します」
直虎「鈴木殿の…」

たしかに父親にそっくりだ。

重好「はい。こたび、跡を継ぐことになりました」
直虎「え…?」
重好「父はこたびの大沢攻めに徳川方として参陣、みまかりました。どうか、井伊の殿に経をあげていただけぬかと」

鈴木は井伊と縁深い家でありながら、近藤に協力して井伊谷を乗っ取りにきた。そのせいで政次は死に追いやられたのだ。
政次の辞世と碁石を持ってきてくれたのは、自身の後ろめたさからだろう。

直虎「もうしばしすれば和尚様がお戻りになる。和尚様にあげていただいたほうが鈴木殿も喜ばれよう」

心から悼むことなどできぬ者が経をあげても、供養になるまい。

重好「父は生前、殿──次郎様の歌うような経を聞いてみたいと申しておりました。父のやったことは存じております。なれど、どうか、どうかあわれと思ってやってはいただけませぬか」

直虎は断りきれなかった。
尼のはしくれ、仏殿で本尊と向き合えば自然と無我の心になる。

経をあげ終え、重好に向き直って一礼する。
重好もきちんと礼を返し、泣き笑いのような表情を浮かべて言った。

重好「美しい経でございました。父も喜んでおりましょう。かたじけのうございました」
直虎「…そなたは、父上の代わりに参陣なさるのか」
重好「はい」
直虎「そうですか。武運を祈ります」

武家に生まれた以上、当然のことだ。
父親に対してはわだかまりがあるが、重好には無事でいてほしいと直虎は思っていた。
とはいえ、まだ小さい少年が戦場で生き永らえるのは、並大抵のことではあるまい。

そこに、辰がすごい勢いで駆けてきた。
「頭が!」


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急いで部屋に戻ると、昊天と方久が安堵した顔で笑っている。
龍雲丸の顔を見ると、うつろではあるが目が開いている。

直虎「気が付いたのか、頭」
龍雲丸「変わった経が聞こえてきて……なんでぇと思ったら……」
直虎「よう戻ってきたの…」

龍雲丸の手を握り、涙をこぼした。
そんな直虎の姿が嬉しくて、龍雲丸も傷の痛みに顔をしかめながら微笑んだ。

気賀での出来事は、南渓から聞かされた。

龍雲丸「さようにごぜえますか。城で拾うていただいて…。他の皆は?」
南渓「分からぬ。どこかへ逃げ延びたかもしれぬし。あの場所じゃ、波にさらわれてしもうたのかもしれぬ」
龍雲丸「さようで…」
南渓「頭。戻ってくれて礼を言うぞ」
龍雲丸「そりゃ、こちらの言うことでは」
南渓「政次を失い、もう手が離れておったとはいえ、縁のあった気賀の城も滅んだ。井伊という家の命脈も失った。次郎にとって、そなたを守りきれたことはどれほど支えになるか」
龍雲丸「…俺なんぞでよかったんですかね?」
 

直虎はしっかり休み、翌朝から龍雲丸の世話を再開した。
その傍らでは方久も手伝っている。

薬湯の入った茶碗を差し出すと、龍雲丸は少しだけ飲んで顔をしかめた。

龍雲丸「こりゃあ人が口にするもんじゃねえでしょう」
直虎「良薬は口に苦しというであろうが」

龍雲丸はしぶしぶながら一気に飲み干した。つい先日まで飲み込むことができなかったのに、よく回復したものだ。

方久「自分で飲めるようになりましたなぁ」
直虎「のぉ」
方久「吸い飲みでも受け付けず、一時はどうなることかと…」

龍雲丸「…あの、吸い飲みでなきゃ、俺ぁどうやって飲んでたんでさね」

直虎はギクッとした。

直虎「あ、和尚様が口移しでの」
龍雲丸「お、和尚様が!?」
直虎「うむ。感謝するがよいぞ」

龍雲丸は呆然として、「和尚様…」と呟きながら自分の唇を触っている。
直虎が目をそらしていると、そこに南渓が入ってきた。

南渓「頭、具合はどうじゃ?」

龍雲丸がギョッとしたのを見逃さず、南渓がそばに寄ってきた。

南渓「どうかしたか?」
龍雲丸「いえ、別に」

龍雲丸は気まずそうに目を伏せている。
南渓はますます気になり、親身になって龍雲丸の手を取った。

南渓「なんじゃ、遠慮せずに言うてみよ」
龍雲丸「いえ、まことになんでも…」

龍雲丸は手を離して逃げるが、さらに近寄っていく。

南渓「なんじゃ、水くさい。次郎には言いにくいことか」

やりとりを見ていた直虎が堪えきれずに噴き出した。
笑い転げる直虎を見て、龍雲丸もつられて笑った。

龍雲丸「何がそんなにおかしいんでさぁ」


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傑山が急いだ様子でやってきた。

傑山「和尚様、次郎。近藤の者が…」

3人の間に緊張が走った。盗賊団一味の頭がここにいることが、何故ばれたのだろうか。
直虎がうろたえていると、「どれ、わしが行こう」と南渓が出ていった。

近藤という男の執念深さはよくわかっている。面目を潰されたら、やり返さずにはおかないだろう。

南渓が戻ってきた。

南渓「大事ない。館の病人を見てほしいだけじゃと」
直虎「かようなときにだけ。都合の良いことじゃ」

病人のところへは昊天が行くことになった。
気はまったく進まないが、直虎も昊天について井伊の館に行くことになった。

驚くことに、重症を負ったというのは近藤本人だというのだ。
横になっている近藤の傍らに昊天が腰を下ろし、手を取った。

昊天「お脈を拝見。次郎、傷のほうを確かめてください」

政次を磔にした張本人を前にして、直虎は固まってしまった。政次を殺した者をどうしてわざわざ助けなければならないのか…。
葛藤しながらも布団を剥がすと、近藤は脚に直視できぬほどの大怪我を負っていた。
堀江城の戦いで深手を負い、近藤方の医者では手に負えないらしい。

直虎「湯を持ってきてください。それと、あるだけの布を」

憎い相手ではあるが、眼前で苦しんでいる様はあわれだ。この男もまた戦乱の犠牲者かと思うと、否応なく憐憫の情が湧いてくる。

やがて、熱に浮かされていた近藤の目が開いた。
直虎を見たとたん、その目が凍りついた。

近藤「何故、こ、この者たちが…わしを殺す気か!?」

治療道具の刃物を手にしているのを見て、勘違いしたようだ。
直虎は思わず笑ってしまい、刃物を振りかざした。

直虎「…殺すつもりならば、このまま捨て置きます」

優しく言うと、ご無礼つかまつります、と近藤の脚をきつく縛っていた布を切った。

寺に戻って近藤の話を龍雲丸に聞かせた。
龍雲丸はおもしろがって笑った。

直虎「しかし、勝つというのは、なんなのであろうの。勝ったところで、また戦に駆り出され、声変わりもせぬ後継ぎが戦に出るという。深手を負い、もう馬にも乗れぬようになる者もある」

龍雲丸は黙って聞いている。

「まことに勝ちなのであろうかの、それは…」

直虎には、この群雄割拠の世がむなしく思えてしかたがないのだ。
 

その頃、家康は極秘裏に氏真と面会していた。

氏真「何故、余を助ける?」

家康から和睦を申し入れてきたのだ。

家康「わがほうもすり減ってきておりますし、そちらも同じことかと」
氏真「しかし、世の首を取らねば、あの人でなしは怒り狂おう」
家康「武田は今、余裕をなくしておりますし。北条様の元に身を寄せられれば…」
氏真「答えになっておらぬ気がするがの」
家康「…少し、戦に嫌気も差しまして」

家康の本音だった。
しかし、氏真は詭弁と受け取ったようだ。

氏真「は。そのほうがか?」
家康「私はなにも好んで戦をしておるわけではございませぬ。せねばならぬように追い込まれるだけで」


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氏真が突飛なことを口にした。

氏真「…大名たちは、蹴鞠で雌雄を決するようにすればよいと思うのじゃ」
家康「は?」
氏真「よいと思わぬか。揉め事があれば、戦の代わりに蹴鞠で勝負を決するのじゃ。さすれば人も死なぬ、馬も死なぬ。兵糧もいらぬ、銭も人もかからぬ」

いかにも大家のお坊ちゃん育ちらしい考えだ。そうだったらどんなにいいか。蹴鞠でなく、囲碁でも同じようなものだ。

家康「…ようございますね」
氏真「ところが、それでも戦になる」

厳しい表情で氏真は続けた。

氏真「蹴鞠のうまい者を巡り、奪い合いが起こり、それが引き金となり…同じことが起こる」

名門の御曹司も、苦労をして成長したようだ。

氏真「なれど、余は戦などちいともおもしろうないゆえな。家臣の手前、引くに引けぬようになっておったが、もうかようなことと付き合いとうもない」

駿府を一日で灰にされ、信頼していた重臣たちの裏切りに遭い、残っているのはわずかな家臣のみ。

氏真「和睦はありがたいぞ、三河守殿…」
家康「…はい、太守様」

せめて家康は敬意を表して頭を下げた。

龍雲丸は順調に回復し、起き上がれるようになっていた。
境内の一角で、直虎は龍雲丸の髪を洗ってやった。

直虎「いっそのこと切ってしまってはどうじゃ」
龍雲丸「やめてくだせえよ。せっかく伸ばしておるのに」

すでに尼削ぎの直虎より長くなっている。

龍雲丸「このあいだの勝ち負けの話でごぜえやすが、実は井伊はさして負けてはおらぬのではないですかね?」

突然そんなことを言い出した。

龍雲丸「家の名や土地はのうなりましたが、皆様生きておられるのだし、民百姓も戦には連れてゆかれねえと聞きやしたし」
直虎「…しかし…但馬を失うてしもうた」

直虎の心の傷は、簡単には癒えていない。
そこに、久しぶりの顔が現れた。

直虎「之の字」
直之「お久しゅうございます」

直之一人を連れ出し、気賀のことは話した。

直之「さような成り行きで…」
直虎「方久もいまや無一文でな」
直之「それとこれは別のような気もしますがの」
直虎「どうじゃ、皆は元気にやっておるか?」
直之「はい。なつ殿と亥之助殿は、但馬の死がかなりこたえておったようですが…今は穏やかな顔をなさっております」
直虎「そうか」
直之「殿も落ち着いておられるようで」
直虎「おかげさまで、今はの」

直之が一通の文を取り出した。

直之「皆様からにございます。もう贅沢はできませぬゆえ、皆で一通に」
直虎「…そうか」

手紙の書き出しは「母上様」で始まっている。高瀬からだ。
質素な生活ながらも、皆が生き生きとした暮らしを送っているようだ。

字が変わり、流れるような美しい字になった。祐椿尼だ。
亥之助と直久は碁を打っているのだが、とにかく進まないという。
一手打っては考え、打ち返しては考え…高瀬が思わず「亀の歩み」と呟いた。
二人は政次に手ほどきを受けた者同士。これは政次と政次が戦っているようなものだ。
その様子を見てなつが泣き崩れた。

最後は、なつの字だ。
これまで触れられなかった政次の話もできるようになったという。
不謹慎だが、但馬の真似なども流行っている。

皆の気持ちが痛いほど伝わり、直虎は泣きながら笑ってしまった。

直虎「なんじゃ、但馬は生きておったのか」
直之「残念ながら、あの二人、そして虎松様の中にも…しぶとく生き続けましょう」
直虎「そうか…そうか…」

一度参らねばならぬな、と思いながら、直虎は涙を拭った。


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龍雲丸は廊下から二人の様子をのぞいていた。
よかったな、尼小僧…そう思って微笑んでいると、前方から方久と辰がやってきた。
何かがいつもと違う…気付いた龍雲丸は目をむいた。

龍雲丸「その頭…」

なんと、二人とも見事に剃り上がっている!

方久「昊天様に弟子入りをしようと決めました」
龍雲丸「で、弟子入り?」
方久「もう戦道具は売りませぬ。たとえ、いかに儲かろうとも。では何を売るか。戦道具と同じほど儲かり、しかも人を助けるもの。それは薬にございます!」

結局儲けたいんじゃねえか…龍雲丸はあきれた。

方久「これよりは薬を商います。ないところにはばらまき、あるところからはぼったくり! そうして再び巨万の富を得とうございます!」
龍雲丸「…ま、毒は売らねえようにな」
方久「そうじゃ。頭はこのあと、どうするのじゃ?」
龍雲丸「そうでさぁねぇ…」

龍雲丸は、しばし流れ雲の行先を見つめていた。

昊天と小坊主が何やらざわついている。直虎が尋ねると、龍雲丸の姿が見えないのだという。
起き上がれるようになったばかりで、完治には程遠い状態だ。

直虎「捜してきます」

直虎はすぐに駆け出した。

夜明け前になって、直虎は気賀にある龍雲党の根城に到着した。
薄暗い中捜し回ると、うずくまっている人影が見えた。
駆け寄ってみると、龍雲丸が痛みに顔をしかめて脂汗を浮かべていた。

龍雲丸「尼小僧様…」
直虎「まったく、なんという無茶をするのじゃ」
龍雲丸「大事ねぇかと思うたのですが…」
直虎「ばかではないのか! 傷はふさがったばかりであろう!」

叱りつけると、布団代わりに使えそうなものがないか物色しだした。
龍雲丸は、直虎の背中をじっと見つめた。
こんなところまで俺なんかを捜しに来て、ばかはどっちだ…。

龍雲丸「悪運が強えというか…なんでいつも俺だけ生き残っちまうんでさぁね」
直虎「…われもじゃ、頭。われも、わればかりが生き残る…何故、いつもそうなるのかと。こたびも何故、但馬ではなく、役立たずのわれが生き残ってしまったのかと思う」

涙が出そうになるが、グッとこらえた。

直虎「なれど、そなたを助けることができたことだけはよかった…そなたが生きておってくれてよかったと…」

直虎の胸が詰まった。
顔をそむけると、龍雲丸が手で自分の目を覆い隠した。そして、もう片方の手が、そっと直虎の手を握り締めた。

掛川城では、氏真と春が慌ただしく出立の支度をしていた。
春の実家・北条家へ身を寄せることにしたのである。

氏真の表情に悲愴感はない。むしろ、遠駆けにでも出掛けるような気軽さだ。
まじまじと見ている春に氏真が気付いた。

春「何やら、妙に晴れ晴れとしたお顔をしておられるので」
氏真「…叱られるかもしれぬが、肩が軽うなった。桶狭間から十年、わしは身の丈に合わぬ鎧を着せられておったような気がするのじゃ。これからは、わしのやり方でも舵取りができるような気がしてな」

そう言うと、氏真は笑った。
そんな夫が嬉しくて、春も「頼りにしております」と笑顔を見せた。

わずかな手勢を連れて夜のうちに掛川城を出立した。これにより、名門中の名門であった東海の雄・今川氏は滅亡した。
かくして、遠江全域は徳川の治めるところとなった。

「…入れたの。入れてしまったの!」

朝になって入城した家康は、とぼけてはしゃいだ。
一方、忠次はにこりともしない。

忠次「これで済むとお思いですか? 武田は怒り狂いましょう。今度は何を仕掛けてくるか」
家康「…まぁ、なんとかなるのではないか?」

家康は、自分に言い聞かせるように言った。

「きっと、なんとかなる」
 

同じ頃、龍雲党の根城に二人の姿はすでになかった。
短い伝言だけが残された。

「井伊で待つ」

 

[次回] 第36話のあらすじとネタバレは近日更新

 
大河ドラマのノベライズ版はこちら。

 

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