一方の直虎も、準備を怠ってはいなかった。
虎松に落ち延びるよう説得した。
直虎「今川は、そなたの首を差し出せと言うてくるかもしれぬゆえな」
そう言ってくるであろうことは想像がつく。南渓が傑山(市原隼人)を遣わして、落ち延びる手はずはすでに整っている。
虎松「嫌でございます! 虎松はここで皆と戦います!」
そう言った瞬間、虎松の頭上ギリギリを矢がかすめた。
傑山が矢を放ったのだ。
六左衛門「傑山殿! 何を!」
直虎が六左衛門を手で制した。
虎松は驚いて腰を抜かしている。そんな虎松に傑山が近付いていく。
怯えて後ずさる虎松の額に、矢の先をあてがった。虎松は恐怖のあまり失禁してしまった。
傑山「虎松様、戦場とはこういうものです」
すると、傑山はにかっと笑った。
傑山「まだ、お早い」
直虎は虎松に近づくと、じゅんじゅんと説いた。
大将がすべきことは、生き残ること。それが皆の生きる力となる。ほかの誰にもできぬことであると。
井伊を守るために、今そなたがせねばならぬことは逃げることであると。
直虎は六左衛門に、虎松の守り役をするよう頼んだ。
六左衛門「それがしなどに務まりましょうか」
なかなか引き受けない六左衛門に、「つべこべ言うな!」と直之がどなった。
直之「いざとなれば、そのでかい図体で盾となればよいのじゃ!」
六左衛門は意を決したように顔を上げた。
六左衛門「鎖帷子をお貸しくださいませ! 奥山六左衛門、歩く盾となりまする!」
直虎は、信頼できる家臣の後ろ姿を見送った。
直虎は龍潭寺に戻り、虎松の件を報告すると、今後について話し合った。
するとその時、怒号が聞こえてきた。
部屋を出ると、小野の郎党が昊天を恫喝していた。
小野の郎党「こちらへ虎松様を引き渡されよ!」
政次や関口の手の者たちが寺の中に入り、虎松を探し始めた。
政次「ここに虎松がおるであろう。おとなしく引き渡されよ」
南渓「井伊は太守様の命に従い、家を畳みました次第。謀反のかどならいざ知らず、引き渡すいわれはみじんもございませぬかと。ひとつ理由をお聞かせ願えませぬか」
政次「太守様が虎松の首をご所望じゃ」
虎松の首と引き換えに、政次に城代を任せるという好条件を突きつけたのだ。
政次「どちらへ逃した」
小野の郎党が南渓に刃を向けた。
政次「どちらじゃ!」
直虎「知らぬ!」
政次「この尼を捕らえおけ! 虎松が捕まらぬ折は、そなたでご満足いただく。連れて行け!」
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