直虎はようやく居館に戻ることができた。
家臣たちや乳母のたけ(梅沢昌代)、母である祐椿尼(財前直見)からさんざん絞られたことは言うまでもない。
あんなことがあっても、直虎は賊を捕らえて処罰する気にはなれなかった。
武家は泥棒という言葉が、脳裏から消えなかった。
しばらくして、方久が妙なことを言い出した。
方久「木を切り、売るのでございます。今はあちらこちらに戦場がございます。焼かれた城もあれば、新たに建てる館も山ほどあるということで」
直虎は、人手がない…と言いかけたところで、ハッとあの男の顔が浮かんだ。
直虎は急いで龍潭寺に向かい、南渓(小林薫)と話をした。
そして文を書きあげ、南渓に託した。
数日後、文で伝えた場所に、頭と呼ばれる男は現れた。
頭「そうしていると、尼さんに見えますねえ。で、話ってな、なんですか」
直虎「幼き頃、われは蕪を盗んだことがある。追い詰められれば人は盗む。百姓に生まれようが、武家に生まれようが、人とはそういうものじゃ。故に、われもそなたも等しく卑しい。だが、それは幸いなことなのか?」
頭「へへっ、なんだ。もっと色っぽい話かと期待しておったのですが」
そう言うと、男は立ち去ろうとした。
直虎「われも逃げずにお主の言葉を考えた。お主も受け止めるのが人の道ではないのか!」
男は座り直した。
直虎「卑しくあらねば生きていけぬというのは、幸いなことでは決してない。ならば、せねばならぬことは、卑しさをむき出しにせずとも済むような世にすることではないのか」
頭「世をつくる? あんた、いかれてんじゃねえのか」
直虎「やってみねば分からぬではないか!」
頭「無理に決まってんだろう!」
直虎「できることしかやらぬのか。だから腹いせの泥棒か。なんとも、しみったれた男じゃな!」
男の目が険しくなる。
直虎「井伊は材木を商うつもりじゃ。…その木を切る役目をそなたらで請け負う気はないか」
頭「木を切る?」
直虎「お主らには、あっという間に木を切る腕がある。それを使ってみぬかと言うておるのじゃ」
頭「何ゆえこんな酔狂な申し出をする? わざわざ俺らに声をかけずとも…」
直虎「お主に言われ、確かに武家は泥棒かもしれぬと思うた。じゃが、それを認めるのは御免じゃ。ならば、泥棒といわれぬ行いをするしかないではないか」
男の顔がみるみる笑顔になっていった。
頭「…おし! よろしく頼みまさぁ、直虎様」
直虎「おう! よろしく頼むぞ、頭」
直虎「頭、名はなんというのじゃ?」
頭「…龍雲丸だ」
直虎「りゅう、うん…雲の龍か」
妙な縁で二人はまた繋がることになった。
龍雲丸率いる一団はすぐに井伊にやって来た。
空には、龍のような雲が立ち昇っていた。
ところが、すんなりと事は運ばないのが世の常ということを、直虎はまだ気付いていないのだった。
[次回] 第22話のあらすじとネタバレ!「虎と龍」
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