龍潭寺で、とある出来事が起こっていた。
嫡男誕生の知らせを聞いた次郎が、井戸に向かって手を合わせていた。
すると、いつもと違う気配を感じた。
まさか!と思い、井戸に石を落としてみると、水音がした。
涸れていた井戸に水が湧き出したのだ。
次郎は喜んで躍り上がった。
次郎「ご初代様が虎松の誕生を祝ってくださっているのだ!
虎松はきっと井伊をよみがえらせる男になるのじゃ!」
一方、駿府の今川家は、緊迫した空気がみなぎっていた。
「桶狭間の戦い」の後、三河の岡崎城を守っていたはずの松平元康(阿部サダヲ)が反旗を翻し、今川方の城に襲いかかったのである。
「裏ではすでに織田と手を結び、こたびの謀反と相成った様子にございまする!」
三河の国衆らは次々と松平側に寝返り、永禄5(1562)年1月には、元康と織田信長の間に同盟が締結された。
激怒した今川氏真(尾上松也)は、松平方に味方した国衆の妻子を捕らえ、処刑を行なった。
松平元康の妻・瀬名(菜々緒)と2人の子はまだ今川家に残っている。
瀬名たちに命の危険が迫っていた。
今川と松平の戦に、井伊家は様子見を決め込んでいた。
1年経っても、瀬名たちに関してなんの音沙汰もない状態が続いていた。
次郎は南渓和尚(小林薫)に訴えた。
次郎「和尚様は心配ではないのですか!
また佐名おば上(花總まり)を見捨てるのですか!」
南渓「そんなこたぁお前に言われずとも分かっとる!」
南渓の迫力に、次郎は身をもんだ。
瀬名は、たった1人のおなごの友だ。
何かいい手はないか考えた。
そうだ!
何かを思いついた次郎は、旅装を整えて寺を後にした。
次郎が目にした駿府は、最悪の状況だった。
以前、力を貸してくれた寿桂尼(浅丘ルリ子)を訪ねたが、簡単にあしらわれてしまった。
寿桂尼「瀬名のことは聞き入れぬ。去(い)ね」
これまでに瀬名が送ってきた手紙を差し出し、次郎は平伏して頼み込んだ。
次郎「お目通しください。
今川への忠義に満ちあふれた文にございます!
夫はどうあれ、瀬名様は今川を心から思っておいでです。
どうか!」
寿桂尼は少し考えた。
と、そこへ急な知らせが届いた。
「上ノ郷城が松平の手に落ち、城主の鵜殿長照様は自害して果てられたとのこと!」
寿桂尼「長照はわが孫じゃ。
…そなたもせっかく来たことじゃ。瀬名に引導を渡して帰れ」
次郎は、館の奥の一室に投げ込まれた。
「…そなたは…おとわ…次郎、様?」
そこにいたのは、母になった瀬名だった。
次郎は、瀬名の手を取って語りかけた。
次郎「瀬名様、命乞いに来たのじゃ」
瀬名「私のために、来てくださる方がおるなど…」
みるみる涙が溢れた。
その瞬間、がらりと襖が開いた。
「松平のお方様」
と声を掛けられた。
「明日、龍泉寺にて、ご自害いただくことと相成りました」
瀬名は、そう言い残して去ろうとする後ろ姿を追い、襖に手をかけて叫んだ。
「お待ちくだされ!
竹千代と亀姫だけはどうか。
どうか、お慈悲を!」
容赦なく瀬名の手が振り払われると、襖が閉じた。
泣き崩れる友の後ろ姿を、次郎は茫然と見つめることしかできなかった。
[次回] 第11回のあらすじとネタバレ!「さらば愛しき人よ」
コメント