1月8日放送のおんな城主直虎 第1話「井伊谷の少女」の詳細なあらすじです。
ネタバレ注意!
おんな城主直虎第1話「井伊谷の少女」あらすじ
「おとわ、覚悟!」
とわが驚いて目をやると、鶴丸が草むらから顔を出していた。
「鶴!こっちだ!」
亀之丞が鶴丸を呼んだ。
幼なじみの3人は鬼ごっこに興じていた。
鬼の鶴丸に見つかったとわをかばうために、亀之丞が大声で叫んだようだ。
鶴丸は亀之丞を気にすることなく、草をかき分けてとわとの距離を詰めていく。
とわは崖の上に追い詰められた。
崖下を流れる川はここ数日の雨で水かさが増し、荒れている。
負けん気が強いとわは、後先を考えることなく激流に飛び込んだ。
その様子を見ていた2人は、まさかの行動に驚いて叫んだが、とわの姿は川の流れの中に消えていった。
天文13(1544)年。
遠江の井伊谷は、浜名湖の北の山あいにある。
500年以上前から井伊一族に支配されてきた土地だ。
時は戦国時代。
戦乱の世にあっては、駿河の大大名である今川家に何度も迫害を受け、ついには数年前に白旗を掲げ、井伊谷は今川家の統治下に入ってしまった。
先々代の井伊直平は娘を今川に人質に差し出していた。
嫡男は亡くなっており、孫にあたる直盛が現在の当主になっている。
直盛は、今川の家臣である新野左馬助の妹・千賀を正室に迎えていた。
政略結婚ではあるが、夫婦の仲は非常に良好で、すぐに女の子を授かった。
名前はとわといい、後の井伊直虎である。
直盛は娘を非常に可愛がったが、その一方で男の子のように育てた。
とわも嫌がることなく楽しそうに従っていた。
さて──。
川に飛び込んだとわは、流れに飲まれそうになりながらも溺れることなく、必死の思いで川岸に泳ぎ着いた。
ちょうどその頃、井伊の居館で評定が開かれていた。
評定に参列しているのは、井伊家の重臣・奥山朝利や中野直由、千賀の兄・左馬助である。
皆が見守る中、激しくやり合っているのは、直盛の叔父・井伊直満と、家老の小野和泉守政直。
それぞれ亀之丞と鶴丸の父親であるが、2人は犬猿の仲だった。
直満は、家督は井伊の男子が継ぐものだと主張した。
すると、政直が言い返した。
「今川の家臣から養子をお迎えすれば、太守様(今川義元)にも覚えてもらえる」
政直は井伊家の家老でありながら今川寄りの発言が多いことから、井伊家の中では疎んじられている。
井伊の当主である直盛には男子がいない。
万一のことを考えると、後継者を考えておく必要があった。
そこで直満が、自身の嫡男・亀之丞をとわの婿養子にしようと縁談の提言を持ち出したのだ。
「今川の機嫌取りはもう十分であろう!」
直満がそう主張すると一同も加勢した。
政直は考え込むように沈黙した。
びしょ濡れのとわは、乳母であるたけとともに館に戻った。
出掛けようとしていた直盛と鉢合わせになると
「その出で立ちはどうした」
水が滴る娘の姿を見て驚いた。
とわは自分の馬を引き出すと、直盛と並んで馬を駆った。
しばらく走って丘の上で止まると、直盛が語り始めた。
「お前が男だったら、面倒なことも起こらないのだが」
「面倒なこととは?」
「おとわが儂の跡を継ぐか?」
「我はずっとそのつもりです」
直盛ととわは馬を走らせた。
[2/3ページ]
直盛たちの居館の近くに龍潭寺という井伊家の菩提寺がある。
直盛の叔父にあたる南渓が住職を務める禅寺だ。
とわが文武を学んでいるのもこのお寺である。
武術全般を教えるのは傑山、学問は昊天。2人の若い僧侶だ。
この龍潭寺にある井戸には言い伝えが残っている。
ある日、井戸に赤子が捨てられているのを近くの八幡宮の神主が見つけた。
これはただならぬ子だということで、拾って育てた。
その子が長じて井伊谷の井伊家を開いたのだと伝わっている。
南渓が問いかけた。
「井戸の中に投げ込まれては赤子は死んでしまうはずなのに、なぜご初代様は生きておられたのか不思議じゃ」
すると、亀之丞が足元の石を拾い、井戸に投げ込んで言った。
「涸れておる。涸れ井戸だったからではないか?」
鶴丸も続いて
「井戸端に捨てられておったのを、井戸の中ということにしたのかもしれないな」
そう言った直後、亀之丞は体調が悪くなりしゃがみ込んだ。
鶴丸が亀之丞をおぶって、とわと一緒に直満の屋敷に駆け込んだ。
横になった亀之丞に付き添っていると、直満が現れた。
「2人はな、夫婦約束をすることになった。今日の評定で決まったのだ。亀之丞は姫の婿となり、井伊の当主になるのだ!」
亀之丞はだじろぎ、とわは声を失っていた。
とわは急いで館に戻り、直盛に詰め寄った。
さっき跡を継ぐか?と仰せになったばかりではないか。
直盛は口ごもってしまったが、母の千賀が口を開いた。
「おなご1人で家を継げるわけがないでしょう。仮にあなたがご領主様になろうが、誰かと夫婦になることには変わりませぬ」
あの心優しい亀と夫婦になる…とわは甘い感覚を覚えた。
遠くに嫁ぐのではない、この家でこれまでどおりに暮らせるのだ。
おっしゃるとおりですと答えると、直盛がほっとした顔で
「よいのじゃな」
と念を押した。
「はい!おなごに二言はございませぬ!」
その日、とわは龍潭寺に足を運んでいた。亀之丞と鶴丸が庭で武術を習っているようだ。
とわは亀之丞と顔を合わせるのが照れくさいので、離れたところで見守っていると南渓がやってきた。
「亀が張り切っとるのう」
「張り切りすぎて熱が出なければいいのですが」
とわが答えると、南渓はにやにや笑いながら
「もう亭主の心配か?」
と言った。2人の婚約話はすでに広まっているようだ。
とわは最近気になっていたことを南渓に尋ねてみた。
「われの身の回りで不思議なことが起こっているのです」
川に飛び込んで方向がわからなくなったとき、何かが導くような声が聞こえた。
心当たりのない馬の飼い葉が置かれていたこともある。
すると南渓は、それは竜宮小僧のしわざだという。
竜宮小僧とは、いつの間にか田畑に苗を植えてくれたり、洗濯物を取り込んだりしてくれるという伝説の生物だ。
[3/3ページ]
その頃、井伊の居館に直盛、直満、政直、左馬助が顔をそろえていた。
左馬助が駿府に出向いてとわと亀之丞の婚約の件を今川家に知らせにいったところ、直満が挨拶に出向くよう言われたのだという。
翌日、直満は左馬助とともに駿府へ向かった。
とわは亀之丞、鶴丸と一緒に竜宮小僧を探し回っていた。
森の中を探索していると、ぽっかりと口を開けた洞窟を見つけた。
3人はおそるおそる洞窟の奥に進んでいった。
すると突然とわが立ち止まり、何かを思いついたかのように声をあげた。
「井戸の子とは、竜宮小僧だったのではないか?」
急に何を言い出すのかと鶴丸が顔をしかめると、
「竜宮小僧は淵に住んでいると聞いたから、井戸の中に放り込まれても息ができたのではないか」
とわが主張すると、少し離れたところで亀之丞が声にならない声を出した。
2人もあわてて視線を送ると、山伏の格好をした人が血まみれで倒れていた。
3人は顔を見合わせると、同時に叫び声を上げて一目散に洞窟から逃げ出した。
3人は龍潭寺に逃げ帰ると、南渓と直盛に声をかけ、洞窟に案内した。
倒れている山伏を見つけると、南渓はお経を唱え、直盛は手を合わせた。
南渓は死体を調べ始めると、すぐに厳しい顔になって直盛と何やら話し始めた。
すると亀之丞が口を開いた。
「この者を先日屋敷で見た覚えがあります」
直盛と南渓は先に戻ると言って急いで帰っていった。とわたち3人もすぐに後を追った。
井伊の居館に戻ると、亀之丞の父・直満が駿府で落命したという知らせが届いた。
謀反をたくらんだと疑われ、太守様に討たれたのだという。
直盛は非常に険しい表情になった。
うなだれた左馬助が口を開いた。
「太守様は、北条宛ての直満様の密書を手にしておられました。今川と手を切り、北条に加勢したいとかかれておりました」
亀之丞が館で男を見たのが事実なら、直満の密書を受け取って届けるためなのか?
北条に届ける道中で襲われた?
だとすると、密書を奪わせたのは誰なのか……。
直満の死で井伊家内は騒然となった。
川名の里で隠居している直満の父・直平も井伊の居館に駆け付けた。
「小野か?直満を売った下郎は小野かと聞いておる!」
直平が声を荒げた。
「じじ様、今は時がございませぬ」
直盛が声を押し殺して言った。
続けて左馬助が、実は別の下知も受けていると語った。
姿を消した亀之丞を探すために、とわは日が暮れたあとも走り回っていた。
月明かりの下で、亀之丞が寺の井戸端に座っているのを見つけ、ほっとした。
「亀!どこへ行ったのかと探したぞ」
そう言って亀之丞の手をとると、熱を帯びているのを感じた。
亀之丞は手を振り払うと
「長く生きられない体、放っておいてくれ!鶴のように頭が良くはなく、おとわのように体が動くわけでもない…井伊の血を引いているだけで、ただの出来損ないではないか」
とわは亀之丞の頬を張っていた。
「われの夫は出来損ないではない!」
とわを見つめた亀之丞は、涙を流していた。
「このまま体が強くならないようなら、われが亀の手足となる。亀の代わりに馬に乗り、村々を回る。いざとなれば戦にも行ってやる」
「おとわは俺の竜宮小僧になってくれるのか」
とわは泣きながら何度もうなずいた。
そのとき、亀之丞が人の気配を感じた。
「おとわ、逃げろ!」
その直後、男の腕が首に巻きつき、とわの記憶はそこまでだった。
とわが気付いたときには布団の中にいた。枕元には千賀が座っている。
「亀は!」
と叫ぶと、
「父上があるところへ逃しました」
と千賀が言った。
龍潭寺でとわと亀之丞を襲ったのは、直盛に命じられた傑山だと告げられた。
千賀はさらに続けた。
「亀の首を差し出すようにと、今川から下知があったのです。下知に背き、逃したことが知られたら、今川に攻め込まれて、父上や私もあなたも打ち首になる。だから、この話は忘れなさい」
とわの頭の中は真っ白になった。
その夜、一睡もできなかったとわは、夜が明けると龍潭寺へ向かった。
涸れ井戸に向かって手を合わせ、一心不乱に祈り続けた。
「ご初代様…亀の無事を、井伊の無事を…」